第2話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした②


 手鏡やハンカチ、髪留め、ポーチ等、私からすれば見覚えのないものがロッカーの中できれいに並べられている。


「カミレさん、どういうことですの?」

「どうって……」


 言われてもねぇ? 見つかって良かったですねって言ったら、怒るんでしょ? 他に言うことは何もないんだけど……。


「カミレさんのロッカーですわよね? もう言い逃れできませんわよ」

「そこ、私のロッカーじゃないですよ」


 そもそも、私はロッカーを使用していない。


「鍵はかかってなかったですよね? 誰でも使えますし、犯人が私だというのは早計そうけいではないでしょうか」


 うーん。詰めが甘い。

 自分がヒロインだと信じていた時に、ロッカーなんて狙われそうな場所はさっさと先生にお返ししたんだよね。

 イジメられるとしたら、机、鞄、ロッカーが狙われるって昔から相場が決まっているからねぇ。あ、あと靴箱もか。

 まさか、こんなことになるとは思ってもいなかったけど。


「私のロッカーじゃないことは、担任の先生に聞いてくだされば、確認が取れますよ」


 危ない危ない。証言してくれる人は、きちんと伝えておかないと。

 自分用のロッカーがないのは私だけだし、元々私の場所だったから難癖をつけられたら嫌だもんね。


 うーん。何も言わなくなっちゃった。

 もういいかな? いくら昼休憩が長いとはいえ、随分と時間を消費してしまったし。


「あの、お昼を食べてきても……」

「これ、マリアン様の万年筆ではありませんか?」


 アザレア以外の声に視線を向ければ、一人の令嬢が私の机の奥から一本の万年筆を取り出した。

 思わぬ伏兵にアザレアを見れば、アザレアまで驚いた顔をしている。

 仲間じゃないんかーい!! と心の中でツッコミつつ、どうしたものかとため息をつく。


「あっ! 思い出しましたわ!! 私、その万年筆をカミレさんに差し上げましたの。ね、そうですわよね!?」


 パチーンとウィンクをしながらの、マリアンからの助け船。

 その瞳は、これで大丈夫だわと言っている。

 でもね、その助け船は泥船だ。乗ったが最後、私が盗んだ犯人になる。ぶくぶくと憐れに沈んでいく未来しかない。


「いいえ。万年筆はもらっていません。お気遣い、ありがとうございます。お気持ちだけ頂きますね」


 ハッキリと言い切れば、マリアンの取り巻きである攻略対象者たちに睨まれた。

 睨まれようと、泥船なんかに乗ってたまるか。


「さっき机の中を確認した時、奥には何もありませんでしたよ」

「そうですわ。私も確認しましたが、何もなかったですわ」


 んぇっ!? アザレア、こっちにつくの?

 驚いてアザレアを見れば、当の本人も驚いた顔をしている。何なら、顔に「しまった!! やってしまいましたわ!!」と書いてある。オロオロしちゃってるし……。

 貴族の世界は化かし合いなんじゃないの? そんなに全部顔に出てて大丈夫なの?

 何だか、アザレアが不憫ふびんになってきた……。


「あの、もうやめませんか? 無くなったものもでてきましたし、これ以上、犯人探しをする必要はないと思いますわ」


 マリアンの一声に、何となく犯人探しは終了の雰囲気となる。

 だが、このまま終われば私が犯人なのだと皆の心に残る。それは、とても迷惑な話だ。

 マリアンは、善意でそう言ってますという雰囲気だけど、果たして本当にそうなのだろうか? 彼女が口を開くたびに、窮地きゅうちに立たされている気がするんだけど……。


 さて、どうしたものか。私が犯人を探した方がいいと言ったところで、誰も協力してくれないだろうし……。


「私、このままなんて不安ですわ。この中に盗みをする人がいるかもしれないんですのよ? 安心して学園に通えませんわ!!」


 アザレアが声を上げれば「確かに怖いわよね」「不安だわ」という声が強まった。

 アザレアは、私を陥れたいのか、助けたいのか、どっちなのだろう……。


「それなら、オレが監視するよぉ」


 へらりと笑いながら、マリアンの取り巻きの一人であるレフィトが手を挙げる。

 レフィトは騎士団長の息子であり、攻略対象者だ。彼はいつも笑っており、誰にでも友好的という表の顔を持つが、実は人間嫌いで心から笑ったことはなく、ヒロインが現れるまで誰にも心を許すことができない設定だった……気がする。

 推しじゃないから曖昧な記憶だけど、概ね合っていると思う。

 

「カミレ嬢が犯人っていう証拠もなければ、犯人じゃない証拠もないんでしょ? それで、みんなはカミレ嬢を疑っていて、安心して学園生活が送れない。これって、大問題だよねぇ。だから、オレがいつでも監視しとくから、みんなは安心して学園生活を送るといいよぉ。女子だけの授業の時は、アザレア嬢に監視をお願いしてもいいかなぁ?」

「それは、構いませんが……」

「それじゃ、決まりだね!! さっそく、今から監視をはじめるねぇ。カミレ嬢、よろしくねぇ」

 

 そう言いながら手を差し出され、反射で握ってしまった。

 

「仲良くしようねぇ」

 

 何故か握手を交わす。そして、そのままお昼を持つよう言われてトートバッグを肩にかければ、屋上へと連行された。

 

 

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