悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした【連載版】

うり北 うりこ

悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした

第1話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした①


 乙女ゲームのヒロイン転生をした。

 ヒロイン転生、ラッキー!! と思って、貧乏な子爵家の娘ながらも勉強を頑張って、奨学生となって学園に入学。

 少しの不安も持たず、期待だけを胸に抱えて足を踏み入れた学園。推しとの幸せ学園ライフを夢見ていた。

 けれど、蓋を開ければ、悪役令嬢になるはずの超絶美少女な公爵令嬢が既に攻略対象のハーレムを作っていたのだ。

 

「あれ?」

 

 こんなことってあるの?

 そう思いながら、推しとの出会いイベントを待った。

 

 ここは、私が前世で楽しんだ乙女ゲームの世界のはず。

 だから、きちんとストーリーを進めていけば、推しを攻略できるはず。

 

 だけど、どんなに待っても出会いイベントは来ない。

 おかしい。めちゃくちゃおかしい。何がおかしいって、私が進めるはずのイベントをすべて悪役令嬢である美少女が進めてしまうのだ。

 そして、遂に私は気が付いた。

 

「ここって、悪役令嬢がヒロインの世界なんじゃ……」


 悪役令嬢ものの小説や漫画が流行っていて、ヒロインはざまぁ要因と化すことも珍しくない昨今。

 そういえばこのゲーム、悪役令嬢がざまぁして幸せになるという悪役令嬢版をダウンロードのみだが配信予定だった気がする。

 

 全てが繋がった気がした。

 どんなに待っても出会いイベントが起きないことも、悪役令嬢なはずの美少女が攻略を進めていることも。その理由は、悪役令嬢が主人公の世界だからだ。

 ということは、私の方が悪役になるの……か? ざまぁされちゃうの?

 

「ヒロインじゃなくて、悪役ヒロイン転生じゃーん」

 

 自分の言葉にダメージを受け、しょぼしょぼとその日は過ごし、寝て起きたら回復した。

 よくよく考えてみたら、貧乏子爵令嬢な私がハイスペック男子とランデブーとかが間違ってたのだ。


 前世を覚えているといっても、どこにでもいる普通の会社員で、特に秀でたものもない。ブラック企業でもなければ、人間関係に悩んでいたわけでもなく、本当に普通の会社員だった。

 連日の(ラノベやゲームが楽しくて寝なかっただけの)夜更かしが祟って、階段で足を滑らして落っこちて、気付いたら転生していたのだ。

 それでヒロイン転生だったら、ラッキー過ぎるというもの。

 

「ハイスペックに生まれたことを感謝して、お城勤めを目指そう」

 

 このまま三年間という学生生活を奨学生として過ごせば、優秀だと証明できて、安定かつ高給取りのお城勤めができるのは間違いない。

 恋や愛ではなく、とにかく堅実に生きよう。

 悪役令嬢もこちらから向かっていかなければ、貧乏子爵令嬢なんかに構うこともないだろう。夢を見るのは終わったのだ。

 

「いやー、いい夢見させてもらったわ。今日からは現実を見て生きていこうっと」

 

 なーんて思ったのだが、現実はそう甘くはなかったようで……。


 

「マリアン様の万年筆、なくなってしまいましたの?」


 クラス中に響き渡るような声で、悪役令嬢であり、この世界のヒロインであるマリアンの腰巾着をしているアザレアが言った。


「どこに置き忘れてしまったのかしら。気に入ってましたのに……」

「本当に置き忘れでしょうか……。私も手鏡とハンカチがなくなってしまいましたわ」


 アザレアは真剣な表情で声を潜めて言った。

 けれど、既に注目を集めているので、声を潜めたとしても無意味だ。むしろ、ただ騒ぐだけよりも深刻さが伝わってくる。


「アザレア様もですの? 私も髪留めがなくなりましたわ」

 

 私も……と一人が言い出せば、次々と自己申告をする令嬢が出てくる。

 何だか不穏だな……と様子を眺めていれば、一瞬だけどアザレアが口の端を上げた。


「こんなにも被害が出るなんておかしいですわ。もしかして、誰かが盗んだんじゃ……」


 何かを企んでいるのは明白で、関わりたくないな……とトイレに避難をしようとした。だが、アザレアの視線は明らかに私を捉えている。

 

「あの……何か?」

「このクラスでお金に困っているのって、カミレさんだけだなぁ……と思っただけですわ」

 

 ……ん? 私が盗んだと?

 

「そうですか。でも、私は高級品に興味がありませんので、私じゃないですね。私の好みは安くて便利なものなので」

 

 そもそも、若いお嬢様方が持っている高級品は、ごてごてと装飾が凝ってるものが多くて好みじゃない。マリアンの持ち物は洗練されてるなぁ……って思ったことはあるけど、やっぱり欲しいと思ったことはない。

 身の丈にあった物でいいんですよ。高すぎる物は緊張するんで。


「あら、言い逃れですの? カミレさん以外はみんな盗まれてますわよ。これが証拠じゃなくって?」

「……私のものを盗む人なんて、いるんですか? 町の商店に売ってるものですよ? 皆さんのものと違って、貴族御用達でも特注でもないですし」


 いらんでしょ。誰でも購入できるものなんて……。


「で、でも、盗む動機があるのはカミレさんだけですわ!!」

「つまり、アザレア様は私が犯人だと言いたいんですね?」

 

 面倒になり直球で聞けば、アザレアは明らかに、狼狽うろたえた。

 

「あなたが疑われるような人物であることが問題なのですわ!! 他の人は盗む動機がありませんもの。ロッカーや鞄の中を確認させてくださいまし!!」

「いいですけど……」

 

 ここまで自信満々ってことは、何か仕組んだんだろうなぁ。

 

「まずは鞄を出してくださる」

「出すも何も、机の脇にかかってますけど」

「……? ありませんわよ?」

「これ、私の鞄です」

 

 そう言って指差したトートバッグ。なかなか頑丈にできているお気に入りだ。

 けれど、生粋のお嬢様にこの素晴らしさは伝わらなかったらしく、明らかに困惑している。

 同情の視線を複数感じるのは、気のせいだろうか……。

 

「学園指定の鞄はどうなさったの?」

「支給して頂いたものは家で大切に保管してあります。入学式などの式典時は、そちらを使用するので」

 

 嘘は言ってない。卒業したら、売れないかな? って思ってるけど、学園にいる間は大事に保管していく予定だ。

 流石に、学園に在籍している間は奨学生として支給してもらったものを売ったりはしない。

 

「鞄の中でしたよね。どうぞ確認してください」


 そう言って勧めれば、アザレアは変な顔をしながら、鞄の中身を出した。


「これは、何ですの?」

「お昼ごはんですね」

「これは?」

「水筒です」

「……これは?」

「ノートです」


 ノートは誰が見ても分かるでしょ? なんて思いながら答えていくと、アザレアは妙なものでも見るように、私を見た。


「教科書がありませんわ」

「机の中に入ってますよ」


 その答えに、机の中にビッシリと詰まった教科書をアザレアは取り出した。


「これ、あなたのものじゃありませんわよ」

「そうですね。毎朝、学園内の図書館から借りてきてるんです。徒歩通学だと重いんですよ。支給してもらったものは、自宅学習用ですね」


 嘘じゃない。折り目がつかないように、狭めに開けて読んでるけど、自主学習に使用している。

 学園を卒業したら、これも売れたらいいな……と思ってるから、すごく丁寧に扱ってるんだから。


「まさか、持ち物はこれだけですの?」

「そうですよ。徒歩通学なので、荷物が重いと大変ですし……」


 あれ? 何か、アザレアが震えてるんだけど。


「鞄の中にも、机の中にもありませんでしたから、次はロッカーですわ」


 何で涙目なの?

 冤罪えんざいをかけられて、荷物を調べられているの私だよ?

 あなたが泣きそうなのは、違うよね? 


 モヤモヤするが、どうしようもない。

 教室の後ろに並べられたロッカー。その前で少しだけ迷った様子を見せたが、アザレアは意を決したのように開けた。

 すると、そこには予想通りの物が入っていた。

 

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