第2話 夜のハンセン指数は泳げない

黄金周の2日目、上海の街は相変わらずの賑わい。こんな日は、方芳と一緒に南京東路へ出かけることにした。本や画面からしばし解放され、この機会にリフレッシュしようというわけだ。


「これって、もしかしてデート?」

そんな考えが頭をよぎるけど、いやいや、友達と遊びに行くって感覚のほうがしっくりくる。それに「友達」って言葉が持つ安心感がちょうどいい。お互いの微妙な気持ちを包み込み、友達でいられることの安定感っていうのは大事だから。


心の中で芽生えるかもしれない感情を抑え、世俗や理解の不足からくる可能性のある軋轢あつれきの危険を回避してくれる。これが「友達」……


リスクを嫌いながらも欲深い自分が嫌いだ。


南京東路は、上海で一番賑やかな商業エリア。国内外の観光客で溢れていて、広い歩道もいっぱいだ。久しぶりにこの賑わいに足を踏み入れると、それだけで活気が伝わってくる。過去の寂れた静けさを経験したからこそ、今の活気に感謝したくなる。


「ここ、今日は特に活気あるよね。いつもより元気な感じがする」と方芳が目を輝かせて言った。


「うん、南京東路に来ると、この都会が生きてるなって感じるよね」と同調しながら、通りの両側に並ぶショップを眺めた。


実際には、地元の人間はあまり頻繁に南京東路には来ない。でも最近、2023年初めにオープンした百聯ZXの影響で、秋葉原的な要素が加わったことで、少し興味が湧いている。もっとも、バッジの値段に驚いて手を引いたが……。


私たちは、小物店に寄り、キラキラした可愛いアクセサリーを物色。方芳は特にこういった可愛い物に目がないみたいで、可愛いイヤリングを手に取ってみせた。


「どう?似合う?」彼女がちょっと得意気に振り向く。


「すごく似合ってるよ!」と思わず笑みがこぼれた。


その日の終わりに、日没を見に上海中心へ行くことに決めた。ただ、黄金周期間中の夕方4時には南京東路の駅が閉まるから、地下鉄を逃して歩いて帰らなくて済むよう、時間は気をつけないと。


エレベーターで高層階に上り詰め、ガラスの囲いのそばに立つと、目の前に広がる上海の夜景に心が奪われた。夕日が金色の輝きを街に散りばめて、高層ビル群がその光を映し出している。上海のスカイラインが遠くに続き、黄浦江が銀色の帯のように街を貫いて、美しさを増していた。


「この景色、最高だね。見てると本当に心が安らぐよ」と、しみじみ呟いた。


方芳は微風に髪を任せながら、「ねえ、こういう時って本当に貴重だから、大切にしたいよね」と静かに答えた。


「うん、また来ようね。でも、時々でいいかな」と冗談めかして応えた。


二人、その場に佇みながら、静かに流れる贅沢な時間を共有した。その帰り道、方芳が何気なく口ずさむ歌は、今日一日の幸せな思い出となって、ずっと心に残るに違いない。



上海中心から陸家嘴の駅へ向かって歩いている途中、突然スマホが震えた。何気なく画面を覗くと、目に飛び込んできたのは衝撃的なニュース。


「香港株10月のスタートダッシュ!ハンセン指数6.2%上昇、ハンセンテック指数8.53%上昇!」


その一報に心がざわめき、さっきまでの日没の余韻が吹き飛んだ。市場のダイナミズムには、常に心を掴む力がある。


「ねえ方芳、これ見てよ!香港株、めっちゃ上がってる!」その興奮を抑えきれず、スマホを彼女に見せた。


「ほんとだ、すごい上昇!政策が発表されてから、こんなに伸びてるのかな」と方芳は驚きつつ、自分のスマホでも市場情報をチェックし始めた。ふたりで立ち止まり、歩道の端で市場について意見を交換する。


画面の数字を見つめつつ、心の中ではワクワクと少しの悔しさが入り混じる。「こんな調子なら、休み明けの内地株も期待できるかもね?」


「うん、政策が連動したりすればね。でも、香港株って結構変動激しいから、油断は禁物かも」と方芳はしっかりした口調で応じた。


「そうだね。市場の予想できないところが、魅力でもあるね」とすぐに返した。


人混みをかき分けながらも、立ち止まっては市場の話に花を咲かせた。休日が続く中でも、心の中ではすでに次の投資戦略が形を成し始めていた。


地下鉄の入口に到着し、今日の冒険は終わりを迎えた。同じ都市の中で交わされた何気ない会話が、未来への投資計画へと静かに連れて行ってくれる。


「今日も色々と刺激的で、市場に対する期待がますます膨らんできた感じかな」と、方芳に思わず笑顔を浮かべた。


「うん……」方芳は微笑み返して、ふんわりと耳元の髪を整える。


夜が更けていく中、心の中で静かに決意を新たにした。この一日がもたらしたひらめきと希望を胸に、どんな市場の揺れも乗り越えていく覚悟を固めよう。


ハンセン指数。それはまさに香港が誇る国際金融市場の名刺みたいなもの。見た目は小さな島に過ぎない香港だけど、その金融マーケットでの存在感は見逃せない。まるで世界中の資本と中国大陸の経済動向をつなぐ橋のよう。


世間ではよく、ハンセン指数の動きが中国経済のバロメーターだって言われてる。なぜなら、香港に上場している企業たちの中には、中国を代表するような企業も数多く含まれているからだ。金融から不動産、テクノロジーに至るまで、その影響は広範囲に及んでいる。


香港の特別な制度や税制が、世界中の資本が集まる魅力を提供している。そしてハンセン指数は、その資本が中国経済についてどう考えているか、その心の鏡みたいなものでもある。市場の波乱の背後には、投資家たちの期待や不安が透けて見える。


この関係性、時には謎めいている。たとえば、ちょっとした政策の動きすら、瞬く間に香港での市場に影響を及ぼすこともある。国家レベルの経済対策から、特定業界の微細なシグナルまで、ハンセン指数の曲線にその影がちらつく。


内地の投資家にとって、香港株から得られる情報はまさに宝の山。香港を通じて、世界の資本が中国経済を見る視点を観察することができる。たとえ二つの市場に違いがあっても、投資家たちの熱意は変わらない。彼らは知っている、ハンセン指数の上がり下がりは、中華全土への影響を持つことを。



だからこそ、ハンセン指数の大きな変動の際、見つめられているのは単なる投資の結果だけではない。そこには、未来の中国経済予測が折り重なっている。この見えない経済のネットワークで、香港株式市場と中国経済の関係は、ただの数字以上の深い絆を示しているのだ。


10月3日、上海に冷たい空気がやってきた最初の朝。カーテンの隙間からこぼれる陽光が机の上に差し込み、部屋に小さな暖かさをもたらしていた。さあ、コーヒーを片手に、ここ数日の学習ノートを整理しようとしたその時だった。


スマホがかすかに震えた。それは、経済ニュースの速報を告げる不穏な振動だった。


「昨日の急騰を受け、今朝の香港株は急変。ハンセン指数はオープンから下落し、すでに4.07%の下落。ハンセンテック指数も同様に大幅に下落し、6.77%の減少。」


その一報に、さっきまでの晴れやかな心が一瞬で曇った気がした。


画面に釘付けになり、市場のこの予測不可能な動きに考えが止まらなくなった。ハンセン指数とハンセンテック指数が、一夜にしてまるで急降下するジェットコースターのように思えたからだ。深呼吸しながら、これこそが市場のリアル—不確実性の塊であると改めて感じ取った。


「どうしたの、小玉?なんだか深刻な顔してる。」ふと、方芳が机の向こうから心配そうに声を掛けた。


「これ見て、港股ホンコンかぶが昨日あんなに上がったのに、今日はこんなに下がっちゃったんだよ」と、スマホを彼女に見せる。


方芳は画面を覗き込み、「本当、市場って思った以上に変動が激しいよね。上がったり下がったり、まさに浮き沈みだらけ」と眉を寄せた。


「でも、上がりすぎた分の調整って考えれば、逆に健康的な市場とも言えるよね」と、自分の考えを付け加えた。

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