第0-2話 HYPER ADVERTISEMENT:後編

 画面内で2人がコメントと会話をしながらダンジョン内を歩いていると、前方に緑色の巨人のようなモンスターが3体出てきた。これはレッサーオークといい、一人前の冒険者と呼ばれるには倒せなければいけない敵である。


『鳴海さん、前方にモンスターがいるよ』


『おっ、確かにそうですね。よし、ここはまず私がかっこ良くあのモンスターたちを倒してしまいましょうか』


 鳴海は優花に返事をすると、左手に持っているショットガンのようなものを相手に向ける。それと同時に、左肩に付いている砲台も同じ方を向く。


「なかなかにでかい砲台でありますな。強力な砲弾が出そうですぞ」


 オタク女性は画面を見ながら鳴海の武装に注目する。彼女は右手にライフルを、右肩にはミサイルの砲台のようなものを着けていて、まさに"Armed to the teeth"――完全武装という意味――だ。実際に口にも武装を着けている訳ではないが。


 鳴海は右手のライフルの射撃を地面に着弾させ、相手の注意を引く。そして相手が自分の方を向いたことを確認すると……、


『さぁ、行きますよー!』


 という声とともに、背中のスラスターを一気に吹かして相手の群れに肉薄していく。撮影しているらしきドローンはちゃんと彼女の方を向いているが、オタク女性の目は追いついていない。


「うわっ!? す、凄まじい速さですな……。あのような重武装でここまでの速さが出るなんて……」


 オタク女性の驚きをよそに、画面内では凄まじい戦いが繰り広げられている。相手の棍棒による攻撃をスッと後方にかわし、3体による連続攻撃もスイスイとかわしていく。しかも、相手の全力攻撃をその場で待ち構え、当たる直前に消えるようにかわすという芸当まで見せてくる。


 そして鳴海がショットガンをレッサーオークのうちの1体に向けた瞬間、相手の頭が無数の弾丸に撃ち抜かれて吹き飛んだ。そのレッサーオークは地面に倒れ、塵となって消え去る。


「す、凄まじい威力ですな……。確かにこれくらい強ければ安心してダンジョンで素材を取れそうですな」


 オタク女性がこう言って感心していると、鳴海は次の相手めがけて両手の銃を一気に連射する! すると相手の体は風穴だらけになり、一気に消し炭になった。オタク女性も他の視聴者も、その威力に一気に驚愕する。


 最後の敵が鳴海の後ろから近寄り棍棒を横に振ると、彼女はバク宙で棍棒を飛び越しながら空中に飛び上がる。彼女は体を丸めて相手の頭上を飛び越し、その後ろを取って左手のショットガンを相手に向ける。まるで海中を漂う人魚のようだ。

 そして彼女がトリガーを引いた瞬間、左肩のグレネード砲から大ぶりな砲弾が飛んでいき、相手の体に着弾して大きな爆発を起こす。


『……といった感じで、Core Moduleを使って戦えるわけですね。皆さん、参考になりましたでしょうか?』


 3体のレッサーオークを屠った鳴海は、カメラ目線になって笑顔でこう言った。それに対してオタク女性は開いた口が塞がらないようだ。


「ほ、ほわ~、凄まじい戦いでしたな……。我輩もCore Moduleを着ければこれくらいかっこよく戦えたり……しちゃったりして」


 彼女がこう言って、配信の説明欄に載っているオンラインショップにマウスカーソルを動かそうとした時、配信画面内にまたもやモンスターの群れが映った。先程出てきたレッサーオークが2体と、ゾンビが30体ほどの構成だ。単体の強さはさほどでもないが、数で苦戦させてくる。


 優花はそんな群れにもひるまず、


『それでは、私はあの集団と戦っていこうと思います。皆さん、よく見ててくださいね!』


 と言ってモンスターの群れに突っ込んでいく。彼女は先程の鳴海に輪をかけて速く、高性能だろうカメラにも全く映らない。

 そして彼女が再び姿を見せたときには、群れの中央にいたゾンビを右手の刀で貫いていた。


「は、速すぎ……。我輩がこんな動きをしたら、確実に脳が揺れて気絶してしまいますなぁ」


 オタク女性のドン引きをよそに、優花は大量のモンスターの群れの中央で大立ち回りを始める。大量の攻撃を刀でいなしつつ、ゾンビの顔面を左手のハンドガンで撃ち抜く。それはまるでモンスターたちを観客に見立てて舞っているようで、美しさも感じさせる。


 ひとしきり舞い終わった彼女は、大きくバク宙をしてモンスターの群れから脱出すると、刀を左側に引いて構える。そして彼女が刀を右に全力で振ると、そこから超高速で衝撃波が飛んでいった!

 それはモンスターたちの群れを薙ぎ払い、当たらなかったごく少数を残し、それ以外を全て倒していった。


 優花は最後の仕上げと言わんばかりに残ったゾンビをハンドガンで撃ち抜き、その勢いでレッサーオークにドロップキックをかます。そして相手の体勢が整う前に刀でバッサバッサと斬っていき、最後に横に一回転して顔面にかかと蹴り! その一撃でレッサーオークは倒れて消え去っていった。


「は、はー……まるでアクションゲームみたいな超高速戦闘でしたな……。カッコいいですが、我輩ができる気は……いや、戦い慣れればこれほどの動きも?」


 と、オタク女性は悩みつつ、ディスプレイを睨む。Core Moduleを使った戦いに思いを馳せているようだ。完全にそれに魅入られている。


 その後2人は多少のハプニングを経て、その層の一番深い階にたどり着いた。この階のモンスターを十分な余裕を持って倒せれば、ベテランと名乗って差し支えないレベルだ。

 2人は入ってからも少し歩いていき、開けた場所に到着した。何本もの道がこの広場へとつながっている。


 鳴海は魔寄せの香――名前通り、モンスターを呼び寄せるための香だ――と台座用の皿を懐から取り出す。そして彼女は、皿に魔寄せの香を全部一度に出した!

 そもそも魔寄せの香というものは一気に全部使わずに少量を出して焚くものなのだが、彼女はそんなものお構いなしとばかりに、大量の香に火を付けた。


「ううむ、我輩にはよく分からないのですが、コメントからしてこの行為は自殺行為と考えても差し支えないようですな……。この2人、そこまで自信を……?」


 ダンジョンについてよく分かっていないオタク女性が頭を抱えていると、画面上では広場に続くすべての道からモンスターたちが殺到しているのが見える。

 しかしそれが相手でも大丈夫と言わんばかりに2人は、


『それでは、行きますよ! 優花さん、前線で大暴れしてください!』


『あいよっ、いっちょ暴れてきますかぁ!』


 と、自信満々に会話をしつつ、モンスターの群れに攻撃をし始めた。


 それからの2人の暴れっぷりは凄まじいと言っても差し支えないレベルだ。


 優花はまずは挨拶代わりと言うように刀から衝撃波を飛ばしつつ、モンスターたちに突っ込んでいく。

 空中で目にも止まらぬ高速機動をしつつ周囲のモンスターたちを斬り伏せていき、モンスターたちの群れを吹き飛ばす。

 画面からは吹き飛んでいくモンスターの群れと光の帯にしか見えない優花の姿が見える。ここまでの速さで空中を飛び回るのを配信に載せた配信者はおらず、こんな動きを始めて見た視聴者がほとんどだろう。


 一方鳴海は、空中を泳ぐように飛び回りつつ、モンスターたちを次々と撃ち抜いている。

 遠距離から魔法を撃ってくるモンスターはアサルトライフルで狙撃し、接近攻撃をしてくる敵はショットガンで撃ち抜く。ワンショット・ワンキルといったところだ。


 2人は当初バラバラに戦っていたが、いつの間にか背中合わせの格好になり、全方向から迫りくるモンスターたちの群れをなぎ倒し続けている。

 それは普通の冒険者が捌くことのない量で、まさにゲーム画面でも見ているかのような見た目だ。しかし、これはゲーム画面ではない、現実に起こっていることである。

 この戦いにコメントも熱狂といった感じで、初回ゆえさほど多くない視聴者数にしては大量のコメントが流れ続けている。


「おあーっ、まさに無双といった感じですなぁ、見栄えもすごいですぞ……」


 もちろんオタク女性もこんな調子だ。


 それからしばらく戦っていると、モンスターの群れがぱたんと来なくなってきた。

 それを機に2人がコメントに反応などをしていると、改めて来たモンスターの群れの中に、なんとまっ金金な見た目のゴールデンゴーレムが現れた! それは、この階のボス部屋にいるはずのモンスターだ!


 それでも2人は驚きつつも余裕の表情に戻り、優花は刀を左側に構える。そしてそれを右側に抜き放つと、沢山の星を纏った衝撃波がモンスターの群れを襲い、モンスターたちをバラバラにしていった!


「ワ、ワァ……」


 それを見たオタク女性はもはやこんな調子で、人語を発する余裕も残っていないようだ。


 胴体を両断されても動いていたゴールデンゴーレムも鳴海の砲弾で吹き飛ばされ、後には大量の素材しか残らなかった。


 この光景に茫然自失となっていたオタク女性は配信終了後に正気に戻り、自身に満ち溢れた表情でオンラインショップへと足を運んだ。もはや、ダンジョンに行って死ぬだろうということは考えていないだろう。


 さて、この物語の主人公はこのオタク女性ではない。配信に映っていた御剣優花、ダンジョンから現れた人ならざる存在である。


──────────────────────────────────────

Prologue Watch me! 完


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