最強光狐と令嬢人魚はダンジョン配信でバズを狙うようです ~このパワードスーツすごいよぉ! ダンジョン深層で無双できちゃう!~

待夜 闇狐

Prologue Watch me!

第0-1話 HYPER ADVERTISEMENT:前編(2025/05/05更新)

 あまり垢抜けていない部屋の中で、オタク然とした見た目の女性がパソコンのキーボードを叩いている。

 部屋には私物が多数あり、ベッドまで置いてあるので、ここは研究室ではなく女性の自室のようだ。

 パソコンのモニターにはエディターのウィンドウが大写しになっており、その中には傍から見たら理解できないような文字列が書かれている。かろうじて何かのプログラムであることは分かる程度だろうか。


 しかし……


「あーっ! ダメだー! 全然研究に身が入らないー!」


 女性はこう言ってキーボードから手を離し、椅子の背もたれに身を預けた。


「あー……我輩があと数ヶ月で死ぬと思うと、そっちに考えが行ってしまって、全然研究のことを考えられない……」


 女性はこう言って、不満げな様子で座っている椅子ごとくるくると回る。


 女性がこう思っているのは、別に病院で余命宣告されたからとか、高名な占い師に「あんた死ぬわよ」と言われたからとかではない。就職活動が難航し、やっと入った会社がダンジョン素材を加工する会社であった。そして魔窟内採取従事者証――通称「冒険者証」――を取りに講習に行ったら、火魔法スキルが発現したからである。

 その会社は自前でダンジョン素材を取りに行く部署を持っているため、火魔法スキルが発現した彼女はそこに入ることになる。そして彼女は自他ともに認めるどんくささであるため、ダンジョンに行けばすぐに殺されてしまう、そう思い込んでいるのである。流石に会社側も運用には気を使うはずなのだが。


 女性は嫌そうな顔をしながらパソコンへ向かい、学校にあるスーパーコンピュータにデータを送ると、パソコンの端にある時計を見た。


「およっ、そういえばもうそろそろライブが始まる時間ですな。あの時我輩がうだうだ言っていた時に同期に教えられたものですが、はてさてどんなものですかな?」


 女性はこう独り言を言いながら、ブラウザを操作して配信ページを開く。すると、「【初配信】Core Module、初お披露目!」というタイトルの配信ページが出てきた。配信画面には、2人のシルエットが映っている。配信が始まるまで残り数分。女性はそれまでトイレに行ったり飲み物を取りに行ったりして待つことにした。


 炭酸飲料のペットボトルを持って部屋に戻ってきた女性がヘッドホンをかぶると、もうそろそろ配信が始まる、という時間だった。


「はてさて、あの方に言われたCore Moduleとはどれくらいの能力なんですかなぁ。より安全にダンジョンに行く事ができると聞きましたが……本当ですかなぁ。あと、静寂しじまインダストリー……ボロクソに落とされた嫌な思い出が蘇りますなぁ」


 女性がこう言って首を傾げると、すぐに画面が切り替わり、2人の女性の姿が出てきた。背景は岩壁になっており、ダンジョンの中で撮影しているということが分かる。


『翠の人魚と!』


『黄色い狐!』


『『初配信、スタート!』』


 2人の女性はこう言いながら、カメラ目線になってポーズを取る。それを見たオタク女性は、


「なっ……」


 と言って絶句してしまった。それもそのはず、画面に出てきた2人の片方は、自分と同じ講習を受けた人だったからである。しかも、彼女は自分にCore Moduleの存在を教えてくれた人でもあった。

 もしかして、この配信に出演するから魔窟内採取従事者証を取ったのだろうか。オタク女性はそう思った。……そして、それだったら何かしらの芸能活動をしている人ではないのか、全く情報がないのは怪しくはないか、とちょっと訝しんだ。


 そんな彼女をよそに、配信は進行していく。


『皆さん、静寂インダストリー開発のダンジョン用パワードスーツ『Core Module』のキャンペーンガール、『翠の人魚と黄色い狐』の初配信に来ていただきありがとうございます! 私は『翠の人魚』担当の静寂鳴海です、こんぴち~!』


 配信に映っている、薄緑の姫ロングでちょっとゴシックな衣装を着ていて下半身が魚のような見た目になっている女性が、カメラに向かってこう言った。


「確かこの静寂鳴海殿、静寂インダストリーの社長令嬢でしたな。あの時一応と思って調べていましたが、まだ覚えているものですなぁ。それにしても、なにゆえ人魚のような姿をしているのですかな?」


 オタク女性はこうつぶやきながら、ペットボトルのキャップを開けて中身をちょっと飲む。彼女は先程自分で言っていた通り、静寂インダストリーを受けたことがあるが、面接で良い反応を得られずに落とされたことがある。彼女自身が言うほど別にそんなボロクソに言われたわけではないが。


『私は『黄色い狐』担当の御剣みつるぎ優花です! こんこゃ~!』


 狐耳と尻尾を着けている金色短髪の女性は、両手でキツネサインを作りポーズを取る。オタク女性と一緒に講習を受けたのはこの人だ。人魚の方と比べると結構小柄で、美しさというより可愛さを感じさせる。巫女服を着て両手でキツネサインを作りポーズを取ると、その可愛さも何倍になる。


「うーむ、やはりこの方は、我輩が知らないだけで何かしらのモデルなどをしている方なのでしょうか……容姿は芸能業界でも通用しそうな感じですからなぁ」


 オタク女性は顎下に手を持ってきて考え込んだ。状況証拠からすると、この狐耳女子は、元々モデルなどをしていて静寂インダストリーに雇われ、ダンジョン配信をするために魔窟内採取従事者証を取った、と考えられる。

 とりあえず、彼女はそう思うことにした。


『それでは、まずは私たちが使っているCore Moduleについて、一般向けに簡単に解説していきましょう! もし技術的な解説が欲しい場合は、今週金曜日に開始される予定の配信をご覧ください! 優花さん、助手、お願いします!』


『はい!』


 画面内では、2人がこんな掛け合いをしている。どうやら進行役は鳴海のようだ。


「そりゃあ、静寂インダストリーの配信ですからな。社長令嬢が進行役になるのは当然でしょう」


 オタク女性はこう言いながらも、ペットボトルの中身をまた一口。


 さて、彼女はCore Moduleについてある程度の事前知識を持っていた。静寂インダストリーの新商品で、背中のバックパックを中心に様々な機能を持つ武装群だ。本体に付いているスラスターで空中を超高速で飛び、身体にバリアを張って敵の攻撃を耐え、本体に接続された武器で敵を倒す。それにより、ダンジョンをある程度安全に探索できる。そういうものらしい。

 これらは全て公式のティザーサイトに記載されているものであり、彼女は優花という女性に教えられてそれを見たのだ。オタク女性は、そこに一縷いちるの希望を見出してはいるのだ。


『静寂インダストリー謹製の装備ならどれでも接続できるので、カスタマイズは無限大! あなただけのアセンブルでダンジョンを攻略することが出来ますよ! 私みたいに射撃武器をガッツリ積んだり、優花さんみたいに近距離を意識した感じで組んだり。色々と試してみるといいですね!』


「ふむ、なんかロボット物のゲームみたいですなぁ。鳴海殿のように遠距離武器でまとめることも出来ますし、優花殿のように近距離武器を主として装備することもできる……」


 画面内にて、鳴海は、両手に銃器を持ち両肩にも重そうな砲台を装着している。それに対して、優花は、左手に拳銃のようなものを持ちつつ、右手には刀を持っている。そのような自由度もCore Moduleのウリなのだと、オタク女性は納得した。


 その後2人は色々な説明や質問に対する回答をしたあと、実演のために場所を移した。


「はてさて、Core Moduleとはどれほどのものなのですかな……?」


 オタク女性は興味津々な様子でディスプレイに向かった。

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