スキルを奪われて勇者パーティーを追放された俺だが、筋トレしまくったら最強になったので復讐開始だ

さるたぬき

第1話 追放

「ギル、テメェを勇者パーティーから追放する」


 突然そんなことを言われた。

 先程、蹴られたみぞおちがまだ痛む。

 僕は蹲り、勇者レオを見上げている。

 痛みに耐えながら、理解が追いつかぬままの脳味噌で僕は問う。


「な、何の冗談だ?レオ……」


 なるべく平静を装い、いつもの調子で語りかけようとするも、声が震える。


「ハッ! 冗談じゃねえよバァカ。お前とはここでお別れだ」


 勇者レオの持つ剣の切先が僕の眼前に迫る。

 勇者レオの後ろにいる重騎士ドウゲンと魔法使いレイラは嘲笑するように顔を歪めながら僕を見下ろしている。


「っだから! ……冗談止めてってば……ここはSランクダンジョンの最深部だよ。こんなところに1人で残されたら死ぬに決まってる!」


 そうなのだ。ここはSランクダンジョン千年迷宮の最深100階層。王様からの命令を受けて、僕たち勇者パーティー『比翼の剣』はこの場所に来ていた。

 僕の後ろにはボス部屋に続く巨大な扉が悠然と立ち尽くしている。そこに入る直前に僕は勇者レオに蹴られてしまったのだ。


「はあーー相変わらず鈍い奴だな。そうだよ。死ぬんだよお前は。ここがお前の墓場だって言ってんの」


 勇者レオの声は平坦で、その目にはどこまでも深い闇が広がっていて、僕は身震いした。


「ど、どうして?」


「あん?」


 よろめきながら僕は立ち上がる。


「ずっと……一緒に冒険してきたじゃないか。幼馴染で、子供の頃から一緒に遊んで……僕たちは友達じゃないのか!?」


「はあ!? キッショッ! キッッショ!! 友達!? 笑わせんな!!」


 剣の横の部分で顔を殴られて、僕はその場で倒れる。


「気持ち悪すぎて鳥肌立つわ! 俺が必要にしてたのはお前のスキルだけ! じゃなきゃ誰がお前みたいなカスと冒険者なんか組むかよ!!」


 倒れた僕を勇者レオは足蹴にする。踏みつける。何度も何度も。

 僕は丸まりジッとそれを堪える。

 攻撃が止まり、勇者レオは大きく息を吐く。


「何をするにしてもお前が口出ししやがる。無駄なモンスターの殺生を止めろだとか、ダンジョンで発見した財宝やレアアイテムはちゃんと王に報告しろだとか。ルールだなんだうるせえんだよ。みんなそこはアバウトにやってんだよ。なあレイラ、ドウゲン?」


「ああ、お前が悪いんだぞギル。俺たちはただ楽しく生きたいだけなんだ。その為にはお前は邪魔なんだ」


重騎士ドウゲンはのそのそと歩を進めて、勇者レオの横に立つ。


「まーワタシは正直あんたなんかどうでもいいけどね。ワタシはレオ様のお役に立てて、一緒にいられたらそれでオールオッケーだからっ!それが1番の幸せだから。でもレオ様があんたが邪魔だって言うなら殺されても仕方ないよねー?」


 魔法使いレイラが勇者レオに抱きつく。

 勇者レオはその頭を撫でながら満足げに口を開く。


「そういうことだレオ。満場一致。お前はここで孤独に死ね」


 蹴られた痛みはもう消えていた。

 ただ胸の辺りがハンマーで内側から殴られたように痛かった。ギュッと胸を押さえた。

 今まで何度も死線を共に超えてきた。仲間だと思っていた。

 歯を食いしばり、涙が溢れるのを必死に抑えて、僕はまた立ち上がる。

 そして口をついて出た言葉は自分でも予想外のものだった。


「僕の肉体強化付与スキルのお陰だ……このパーティーがここまでやってこれたのは僕がいたからだ……ラタリー岩石地帯で赤竜と対峙した時も、アクサス大森林で1万匹のオークと遭遇した時も、全部全部全部僕のお陰で助かった!! そうだろレオンハルト・ライオハイツ!!」


「その通りだ」


「ッ……!」


あっけらかんと肯定する勇者ギル。


「だったら……ここで僕を殺すのは正常は判断とは思えない……!」


 勇者レオが腰につけていた袋から何かを取り出し、僕の前に突き出す。 

 真ん中に星マークのついた金色のペンダント。


「は? なっ……それって」


「そのまさか、さ。この前、別のダンジョンで見つけた聖遺物アーティファクトアビス」


 聖遺物アーティファクトとは現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。

 聖遺物アーティファクトはそのあまりに強力すぎる力の為に国が管理する決まりになっている。


「な、何でそれをお前が持ってる?」


「ダンジョンで俺が見つけたもんは俺のもんに決まってんだろ」


 違う。その聖遺物アーティファクトを見つけたのは僕だ。


「ダンジョンで発見した聖遺物アーティファクトを国に提出せず、個人で使用することは死罪に値する。何てことをしてるんだ……レオ」


「俺は人類最強の勇者レオンハルト・ライオハイツだ。誰にも俺は殺せねえ……っとまあくだらねえ問答はこれくらいにして本題に入ろうか」


 勇者レオは剣を鞘に納める。


「お前のスキルは確かに特別だよギル。お前の肉体強化付与スキルのお陰で俺たちパーティはやってこれたのは間違いない。それに関しては感謝してるよ」


「だったら……」


「だから奪うことにした」


「は?」


その瞬間、聖遺物アーティファクトがまばゆい光を放つ。僕は眩しくて目を閉じた。

脳みそが直接握り潰されるような感覚がしたのち、光は止んだ。


「グガッ! あっ……あア、アッ!! ガッ!」


ポタポタと溢れるよだれを止められずに僕は頭を抱えてうずくまった。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


「ハハッ! どうだ? スキルを奪われた感覚は? 無能力になった感想は? おい答えろよ」


 勇者レオはうずくまる僕の髪を掴み、顔を近づけて、小さく呟いた。


「たまたま発現したスキルのせいでお前みたいな落ちこぼれに助けられる屈辱がお前に分かるか? こうなって当たり前なんだよ」


 勇者レオはそのまま重騎士ドウゲンと魔法使いレイラに指示を出し、ボス部屋の巨大な扉を開けてもらった。そして僕の髪を持ち、引き摺り、その中に放り投げた。

 寝転がって意識が混濁した状態で、僕は扉の方を見る。


 薄く開いた目に映った勇者レオの顔は勝ち誇ったように歪んだ笑みが浮かんでいた。

 僕にはそれが悪魔の顔に見えた。


 扉が閉まるまでの短い間に、勇者レオとの思い出が走馬灯のように頭に流れた。


 涙が溢れた。

 そして僕は勇者レオに向かい手を伸ばした。


「殺して……やる……必ず生きてここを出て、お前を殺す。必ず」


 ガシャンと大きな音を立てて扉が閉まる。

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スキルを奪われて勇者パーティーを追放された俺だが、筋トレしまくったら最強になったので復讐開始だ さるたぬき @dododosamurai555

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