第29話
すると真ん中にいた実来君が、私の手首をぐっとつかんで豚肉のかんぴょう巻をぱくりとかっさらっていった。親指で唇をさりげなく拭き取る美少年は今すぐにメンズノンノの表紙を飾れる。
美少年によるかんぴょうの咀嚼音を今すぐ録音したい気になるも、実際にはやらなかった。
「このお弁当も豚肉でかんぴょうを巻く発想も、僕には真似できません。」
「…………でも、受け入れてくれるんだ。」
どうにも嬉しくて、嫌でも口角がふにゅっと上がってしまう。私がそっと笑顔で実来君を見上げれば。そこには頬を染め照れる実来心晴などいない。
すごい剣幕で私を見下ろしていた。
「ちょうどお昼なかったんで。たまには栄養バランスあるもの食べたいし。」
「そっすか。」
颯爽と踵を返し、休憩室を出ていく実来君。
綺麗にピンと張る白いシャツは、真田さんにアイロンをかけてもらったのだろうか。すでに実来君には真田さんという彼女がいるのだろうと、私にはこうして保険をかける癖がある。
でも真田さんとのトークを中断してまで、わざわざお弁当取りに戻って来てくれたの?
そんな実来心晴が好き。あ、好きって言っちゃった。
香椎がニヤついた表情で鼻だけで笑う。香椎には見破られているらしい。私が実来君を好きだったこと。
今だって出来るもんなら彼女になりたいけど、まあ無理だよね。私は実来君にとっての悪役令嬢なんだし。
――――そう、私は実来君が好きだった。
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