第26話

香椎が弁当の蓋を開ければ、体よく苦笑を誘った。爆笑はかっさらえなかったのが悔しい。



「ふはっ、なんだよこれ。うけるわ。」


「なかなかにいいアイディアだと思ったんだけど。受け取ってもらえなくて。」


「いや俺は嫌いじゃないわ、こういうの。」



海苔で書いた『ヤリ逃げしてごめんネ。』の“め”の部分をカットするのがほんと大変だった。キャラ弁用カッター使ってまでやる必要性はあったのか。もう単なる自己満だ。



香椎が弁当に添えられた割り箸を割って、私に渡してきた。



「この海苔弁、食べさせてよ。」


「は?」


「謝罪海苔文が乗った飯の部分でいいから。」


 

その飯の部分が一番苦労したんだってば。 


 

私があえて豚肉のかんぴょう巻を箸でつかもうとする。しかし机に肘をつく香椎が、じっと私を見つめてくる。



「…………なに?」



眼鏡越しに見る香椎は、黙っていればいい男だと思う。背が高くて背中は広いし男っぽい。それでいて、今私が断られた弁当を食べようともしてくれる。



正直いって中古車300台確保してきてくれたより嬉しいかもしれない。実来君には誠意がないと思われても、私なりに誠心誠意込めて作った弁当だ。



朝4時半起きの渾身の傑作だと、私が伝えなくとも香椎は勝手に汲み取ってくれる。ああそうだ、私はこの、ひけらかさない優しさが好きだった。

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