第24話

「実来君!ここにいたんだ!」 



その可愛らしい呼び声で我に返れば、思わず実来君と目が合ってしまった。馬鹿にしたように目と唇で笑われ、すぐに入口にいる呼び声へと視線を移す。

 


休憩室のスライドドアから顔を出すのは、女整備士の真田静久さなだしずく(26)だ。私とは対照的な身体つきで、整備士特有のつなぎからでも分かるほどグラマラスだ。



「事故修理頼まれてた分、全部終わったんだけど、保険会社に連絡した方がいいのか直接お客さんに連絡した方がいいのか分からなくって。」


「ああ、多分それぞれ要望が違う。3件だっけ。」


「うん、一つは社用車。」


「あー……あの会社かあ。僕から連絡しとく。」


「えー、いいの?」


「ってそのつもりで僕を呼びにきたんだろ?」


「うん!」


 

二人が休憩室から出ていき、廊下からは真田静久の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。休憩中はいつもくるりと巻いた髪をほどいて、つなぎ姿で女を振りまく女。



恐らく、実来心晴を狙っている。か、すでにできている。



もっと男臭い男選べよ。と思うが、真田さんは女の私から見てもいい女だ。魅力が溢れ出ている。


  

あんな風に実来君とタメ口で仲良くしている姿は実に微笑ましく、羨ましい。



実来君がうちに異動してきたのはまだ3年前のことなのに、誰がどう見ても距離感に違和感を感じる。



営業職と技術職は違う畑だけど、同い年とあってか、研修で何度か顔を合わせていたらしい。タメっていいなあ恨めしい。

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