第9話
「先輩、僕の前ではタメ口にしたらどうです?」
「自分を見失いたくないので敬語でけっこうです。」
「世知辛い女。」
「せめて面倒な女と言ってください。」
「ならば、言い方を変えましょう。」
スーツのジャケットを羽織る実来君の後ろ姿。社会人なのに、今だ美少年の称号を獲得しているスタイル。いい。
私は元モデルとあってか167センチと高身長だ。それに対し実来君は177センチ。わずか10センチ差。定規をみれば10センチなんて指で図れるほどの距離。
私からすれば彼はいつだって微々たる少年。これはきっと、恋愛エネルギーが枯渇した私からすれば推し活に近い情の類。
「次、僕が優勝したらタメ口にして下さい。」
「……は?そんなんでいいの?」
「もはやタメ口じゃないですか。次回の優勝商品どうしてくれるんです?」
「私がコレクションしているポケットティッシュ4つでどうでしょう?」
「困りましたね。僕もティッシュコレクション主義者なんです。」
「……主義者ですか。そこまでティッシュにコアにはなれませんけど。」
振り返り、ベッドに座る私を見下ろす彼。闇夜にまどう蒼の双眸を携え。私を不可思議にあざ笑うのだ。
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