第8話

「それよりも。今日競り落としたクラウス、あれ売れるんですか?」 


 

下着を着ける私を前に、ペットボトルのミネラルウォーターに手をつける彼。爪の血色がいい。ほのかロゼ色の爪に見惚れる自分は、手の甲に、そこから流れるように続く蒼碧の血管に目だけで這わせる。



気管支を潤そうと喉仏が上下する。乱れた後でも彼は美くしくなまめかしい。



同じ新車営業部の連中は皆イケメンばかりだと謳われている。しかし26歳の彼ほどアンニュイ且神秘的な男はいない。彼のせいで周りがぼやけるほどに。



私が言いたいことはただ一つ。とにかく見てくれが私のどストライクなのだ。  



   

「売れるか売れないかではなく、売るんです。」


「レアとはいえパーツだってもう生産されていないのに?」


「パーツだけならいくらでも出回ってますよ。それにメーカーはわざと生産しないだけだし。」


「市場に出さないよう、メーカーが止めていると?」


「フリマサイトやオークションとの価格競争でメーカーは勝てませんからね。パーツだけ製造する時間とコストの無駄です。」


「それならいっそ、新型車出したほうがまだ儲かると?」


「そういうことです。だからレアにはさらに値が張るんですよ。」



悪循環といえるのか、それとも暗黙の了解とも言えるのか。とにもかくにも、今やポケモンレアカードだって盗まれる時代なのだ。



なんせ希少レアは尊い。 



世間が希少に踊らされている。まるで、私が実来君に踊らされているように。

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