第3話
誰かが上手いことを言った。
歴史とは、二度と失敗を繰り返さないために語り継がれるものだと。
私、
我が社の喫煙場で今日も生き生きと語り継がれている。
「叶恵リカってAV女優じゃなかった?」
「え?レースクイーンじゃね?」
「ギャル雑誌の読者モデルからの成り上がりで一時テレビも出てたんだけどね。」
「若手の俳優食って事務所辞めさせられたんだっけ?」
食ってねーわ。
ただ17歳の俳優とテーマパーク行ってスクープ写真撮られただけ。事務所も辞めさせられたんじゃなく自分で辞めたのー。
新車部に見積もり届けにきたつもりだったけど、喫煙所でこうも大胆に話されちゃ行きにくいったらありゃしない。新車部の営業は顔はよいのに顔だけだ。
当社、MURANOは自動車ディーラー。ムラノ自動車というメーカーの正規販売店だ。
うちはその中の地方ディーラーで、新車と中古車を両方販売している。敷地内にはショールームのある新車部棟、青空駐車場しかない中古車部棟、整備用の工場の3か所に分かれていて、私は中古車部で営業事務をしている。
主にオークションでの仕入れや、新車購入時の顧客からの中古車を買い取り、認定中古車としての販売を専門としているのだ。
今は新車購入顧客リストからの中古車査定で、20件もの見積もりを新車部に届けに行く途中。
しかし生涯に障害はつきもので、こうして棟と棟の間にある喫煙所にて、私、叶恵里夏の黒歴史が語られているのだ。
世界の狭い会社での噂話は、こうも黒歴史に黒を重ねられるのか。皆糞忙しいくせに、頭の中身は暇そうで愉快痛快死んでこい。
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