第四話 たまをだいじに①
仲居さんの言葉に首を傾げていると、隣に座っていたレイラが僕に説明をしてくれた。
「スタンピードというのは、魔物が大量に発生して街を襲ってくる災害です」
「何でそんなことに……?」
「はい。街の東の方に魔王が封印されているという遺跡があるのですが……。その封印の力が弱まっているらしく、発生した瘴気によって魔物が増えているのです」
「魔王が封印されている?」
以前にロベルトから聞いた聖女を引退するための三つのタスク。そのうちの一つに『魔王討伐を手伝うこと』というのがあることを思い出した。
「はい。魔王は現在、とある場所に封印されているのです」
「それじゃあ、魔王討伐は?」
「ここだけの話なのですが……。現在の国王は、魔王不在の魔王城に攻め入って、その事実をもって王位を継承されたらしいのです」
ボスのいない城に攻め込んで、どうするつもりだったのだろう。思わず眉根を寄せていると、申し訳なさそうに仲居さんが付け加えてきた。
「えーと、結局魔王はいないけど、継承する条件に魔王討伐があるんです。過去にもそういった例はあったのですが、魔王がいない場合は魔王城まで行って、無事に戻ってくれば良い、ということになっているんです」
「魔王討伐って……。いや、とりあえずはスタンピードか。魔物が増えすぎたので発生したということでしょうか?」
話をスタンピードに戻して、これまでの内容から原因を聞いてみると残念そうに首を横に振った。
「いえ、魔物が増えているのは原因の一つではあるんですが……。それに加えて黒竜が目覚めて巣から飛び立ったのです。それでパニックになった魔物が街へと……」
「クロ……じゃなくて、黒竜の仕業だったんですね」
「そうなりますね」
「冤罪だッ!」
魔王の仕業なら見て見ぬふりをしても良かったのだが、原因がクロにあると言うのであれば話は別である。領主でもあるしね。
「分かりました。では僕たちでスタンピードの方は何とかしましょう」
「ほ、本当ですか? 冒険者ギルドの方にも緊急依頼を投げていて、冒険者たちにも協力はしてもらえるのですけど……」
人数は多ければ多いほど安心はできる。実際に意味があるかどうか、僕には判断が付かない。僕はウンウンとうなずいて話を聞いてから、クロとレイラに振ることにした。
「二人の意見はどう?」
「ふん、魔物の千や二千、我一人で十分である」
「有象無象がいくら居ても意味がありません。ユーリ様とクロ様と私がいれば十分でしょう」
レイラよ。僕を数に入れないで欲しいんだが……。僕がレイラの言葉に戸惑っていると、クロが僕を励まそうとしてくれた。
「心配するな、ユーリ。この街には古代の迎撃兵器が用意されているはずだ。それを使えば大丈夫だろう」
「えっ? それは……使えないんですけど」
クロの言葉を仲居さんがあっさりと否定してしまった。その言葉に僕は不安になってしまう。そんな僕の不安を払拭するかのように、クロは笑い声を上げる。
「くははは。大丈夫だ、問題ない。結界装置の台座も使えるようになったではないか」
「た、たしかに……!」
流石の僕でも、過去の実績を示されては反論の余地がなかった。早速、仲居さんに迎撃兵器まで案内してもらう。
「これは……。別に壊れていないよね」
「そうだな。動力源が無いから動かないだけのようだ。そこで、これだ」
そう言って、クロは鱗を取り出した。ただの鱗のように見えるけど、これが高純度の魔力の塊なんだよね。僕はクロから鱗を受け取ると、迎撃兵器にある台座に置くと、動力が入ってランプがつく。
「あとは引き金を引けばいいのかな?」
「そうだな。我も詳しいわけではないが」
引き金を引くと、銃口から魔力弾が発射された。ほんのわずかな時間だけど、数十発は発射されたのではないだろうか。
「いい感じかな?」
「そうだな。あそこにいるゴブリンをためしに狙ってみるがよい」
狙いを定めて引き金を引くと、ゴブリンに向かって魔力弾が雨のように発射される。少しだけ照準がずれていたので、引いたまま銃口を動かしていく。一瞬だけ照準があっただけだが、数十発の魔力弾を受けてボロボロになっていた。
「すごい、これなら僕でも戦えそうだ」
そのままゴブリンの群れを一掃すべく乱射する。僕のエイム力では精度が低いけど、適当に撃っているだけで、ゴブリンが面白いように溶けていく。
「こ、これは、ヤバいね……」
油断すると「ヒャッハー」とか言いそうだ。それくらい迎撃兵器で蹂躙するのはクセになりそうだった。次第に迎撃兵器にハマっていった僕は、次々と街の北側にいるゴブリンやオークを弾幕を張って蹂躙していった。
しかし、楽しい時間もいつかは終わりが来る。突然、プスンという音がして、迎撃兵器から黒い煙が上がった。慌てて引き金を引きなおしてみたけど、魔力弾が発射されることは無かった。それならば、と台座に乗ったクロの鱗を置きなおそうとしたが……。
「熱っ! メチャクチャ熱くなってるんだけど」
「これはオーバーヒートというヤツだな。装置が冷えるまでは動かないはずだ」
「ちょっとしか使っていないのに……」
落胆して肩を落とす。クロは僕の代わりに装置を調べていた。どうやら原因がわかったようで、僕の方に向き直った。
「すまんな。どうやら我の鱗だと魔力が高すぎて熱が発生しすぎるようだ」
「壊れたわけじゃないの?」
「ああ、冷えれば使えるようになるが……。冷却機構が旧式なのと規格外の動力源を使ったせいで、冷却に一週間くらいかかりそうだな」
一週間ではスタンピードに間に合わないだろう。実質、間に合わないと言われて、僕はうなだれた。あきらめたら、そこで終了だ。僕は顔を上げてクロに尋ねる。
「無理矢理、使ったりはできないの?」
「安全装置を外せば使えるが……。兵器自体が爆発する可能性があるからな。ユーリが怪我をする可能性がある以上、それは認められない」
僕に危険がある以上、クロは絶対に首を縦には振らないだろう。それはすなわち、対スタンピードにおいて僕が戦力外になることを意味していた。
「ううぅ、クロと一緒に戦えると思っていたのに……チラッ」
「うっ、ダメだぞ。気持ちは分かるが、こうなってはどうしようもない」
クロの意思は固く、泣き落としも通用しなそうだ。安全装置を外してもらうのは無理だろう。ならば、急速冷却する方法があればいいのだろうか?
「うーん、パパっと冷やす方法ってないの?」
「無いことは無いが、それはダメだ。ユーリが危険すぎる!」
クロの様子が安全装置を外すときよりも切迫したものとなっていた。その様子に詳しく聞くのもはばかられるように感じる。
「冷やすだけなのに、何が危険なの?」
「それは……。とにかく危険なのだ。ヤツをユーリに近づけさせるわけには……」
煮え切らない態度に困惑していると、頭上から声が聞こえてきた。
「あれ? クロじゃないか。外に出ているなんて珍しい」
その声を聞いたクロは、あからさまに顔をしかめて舌打ちをした。
「チッ、来やがったか。ユーリは我の後ろに隠れていろ」
クロは僕の肩を掴むと、背中に移動させた。声の主はクロの背中に隠れて見えなくなっていた。
「ヤツは危険すぎる。絶対に我の背中から出るなよ。いいな?」
「うん、分かった」
僕がうなずいたのと時を同じくして、巨大な銀色の竜が僕たちの目の前に降り立った。
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