第6話 映画鑑賞
テレビモニターには、映画のエンドクレジットが流れている。
男女の恋愛を描いたそのフランス映画は、
歓喜と希望が見えてくるのに、一転。
切なく、美しく、悲しく、
絶望を受け止める感性が試される映画だった。
健太郎、美乃花、そしておねえさんは、
並んでソファーに腰を下ろしているが、
気分は、冷たい床に正座してる面持ち。
初見ではない健太郎も、そっと涙を指で拭う。
隣を見れば、美乃花は懸命に嗚咽を堪えている。
瞬きも忘れたように、モニターを見つめるおねいさんは、
突然、爆発。
両腕を前方に伸ばし、上半身を伏せて、大音響で発声。
「ぁあぁあぅあぅあぁーーーーー。」
泣き声とも奇声ともつかない、不思議な発声。
大声に一瞬驚く美乃花は、タガが外れたかのように声を出す。
「何なの、何これ、こんなエンディング、ダメだよ、、、。」
「悲しすぎる。グフん!悲しすぎる。グフッ!うぅぅぅん、、、。」
「こんなにも気持ちよくスッキリ悲しくなれる、
こんな映画、他にないよな。」
ぶーーーー!と、鼻をかむ健太郎。
「こんなの見たら、生活に支障が出ます。業務に支障が発生します。
でも、人間性が豊かになる、思考に深みが生まれる、それが芸術。
そう思うのですね。」
「地球人は、不思議です。」
つぶやくおねえさん。
「それでも、とにかく気持ちいいですよ。
こんなふうに泣くのって、気持ちいいですよ。」
美乃花はしみじみ言う。
そして、また3人は無言で思いを噛み締める。
「こんばんは!来たよ!」
3人がいるリビングの窓が突然開いて、霞 晴子が到着。
「どうしたの、みんな泣いてるの?」
「ふぇーーーん、晴子、待っていたよぉ。」
「晴子、いらっしゃい。ちょっと取り込み中でごめん。」
「ほらぁ、晴子さんがビール持ってきたから、
楽しく行こうよー。キャハハ!」
「晴子、もう飲んでるな。」
「だって、今日飲み会だったんだもん。
で、こちらが噂のおねえさん?」
「そう、こちらニャイさん。
ニャイさん、こちら霞 晴子、、さん、です。」
「ニャイ、です。今夜は健太郎さんのご厚意でご厄介になってます。」
「晴子です。よしく!」
「ねぇねぇ晴子ぉ、健太郎にDVD借りるから、今度晴子も一緒に見て。
もう、気持ちいいぐらいの涙腺崩壊映画なのよ。」
美乃花は晴子に抱きつく。
よしよしする晴子。
「じゃあ、僕はテント用意するね。
ニャイさん、手伝ってもらっていいですか。」
「はい、それぐらいのことお手伝いしないと、
バチが当たりますね。」
晴子と美乃花をリビングに残し、
二人はウッドデッキに出る。
テントの設営をしながら、健太郎はおねえさんに念を押す。
「ニャイさん、くれぐれもサンピーの話は無しですよ。
本当は美乃花も晴子も呼びたくなかったんですけど。
二人に知れたら、いろいろ怪しまれて、
ここに居られなくなるかも知れませんよ。」
「はい、承知しています。私は口が硬いですから。」
「設定だけではなく、ちゃんと実行してくださいよ。」
「大丈夫です。任せてください。」
「なんかチャラく見えちゃうんですよね。お願いしますよ。」
「はい!」
お泊まり会の夜はまだまだつづく。
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