第2話 保護猫ニャイ
美しい女性の姿をした、9次元世界から来た地球外生命体は、
確かに健太郎の顔見知りだった。
「中川 健太郎 様!」
「はいぃ。」
「私はこの度9次元世界から遮断されてしまいました会社がまた無茶をしでかしまして許認可を取り消されてしまいましたさらに債務不履行のあおりで出張中の私たち営業スタッフの業務維持装置が停止され孤立無縁無一文でこの地球に放置されてしまいました私はお腹が減ってもう倒れそうです今夜寝る場所もありませんどうか私を助けてくださいお願いします。」
「ちょ!っと待ったぁ。3倍速で話さないで。」
「申し訳ありません。
はーっ、はー、もうグリコーゲンが残り少ないので、
急がないと私の脳が停止してしまうのです。
つまりまとめると、食べ物を与えてください。」
「おねえさんは、9次元世界の科学技術を使って、
魔法のように何でもできるんじゃなかったんですか?」
「その装置との接続を解除されてしまったのです。
残ったのは私の肉体だけで、普通の一般人と同じです。
ちょっと能力が優れているものの、ただの地球人です。
ちなみに100mを7秒88とか46桁の暗算ができるとか、
肉体と頭脳を究極に効率よく使う術の情報が、
頭の中に残ってはいますが。
ただ、ちょっと考え事をするだけで、
普通の人の平均より10の34乗倍の深読みをしてしまって、
無駄にグリコーゲンを消耗しています。
だから、お腹が空いて死にそぉなの♪
助けてください。」
「人助けするのは、やぶさかではないんだけど、
おねえさん、人じゃないんでしょ?」
「出生で差別しないでください。
確かに私は人工的に作られた生命体ですが、
細胞から、遺伝子から、すべて完璧な人間です。
9次元世界の知識もありますが、
同時に人間の感情を再現するために、
26年間の人生の記憶も与えられているのです。
小学校の思い出も、高校での失恋経験も、
おばあちゃんが亡くなった記憶も、
私の中では、すべて本物なんです。」
涙で訴えるおねえさん。
「よくわからないけど、おねえさんの涙は信じます。」
健太郎は握手を求めて手を伸ばす。
おねえさんも手を伸ばし、握手。
「おねえさんの手、あったかいですね。人間なんですね。」
「おねえさん、名前は何て言うんですか?」
「、、、そこがうちの会社の抜けてるところで。」
「へっ!?」
「名前はまーだニャイ。」
恥ずかしそうに答えるおねえさん。
「マーダ ニャイ、さんですか。」
「東南アジアかどこかの設定なんですか?」
「プーーーーッ!そ!うです。マーダ ニャイです。
ニャイです。そ!う呼んでください。プフッ。」
「ニャイさん、じゃ、ウチがすぐ近くなので行きましょうか。
とりあえず、晩御飯を食べましょう。」
「ありがとうございますぅぅ。」
深く頭を下げるおねえさん。
ロングヘアーが垂れて、フワフワしている。
綺麗なおねえさんは好きです。
ちょっと恋愛感情とは違うようだが。
近所にこんなおねえさんがいたら、
毎日楽しいだろうなぁ、みたいな。
「うちの親には、本当のこと話すと面倒なことになりそうなので、
大学の友人、でいきましょう。
そう、何回か留年して年上だけど、同じ大学2年生の設定で。」
「了解です。」
「ただいまぁ。」
「あれ、電気が点いていないな。」
リビングのテーブルの上に置き手紙が。
【急な話だけど北海道行ってきます。
留守番よろしく。
父と母より。】
「やられた。」
「またグルメ番組でも見たんだな。」
「ご家族はお留守ですか。」
「ごめんなさい。ピザとかでもいいですか?」
「ピザもいいですけど、私が何か作りましょうか?」
「できるのですか?」
「たくさんのレシピがダウンロード済みです。」
「えっ?」
「今は解除されてオフラインですけど、
多くの地球上の情報が頭に入っています。」
「冷蔵庫見せてもらいます。」
「親子丼はいかがですか?」
「すごいね。9次元は便利ですね。」
「こんなのは序の口です。
一宿一飯の恩義ですから。」
「そんな言葉も知っているんですね。」
つづく。
この作品には、関連したお話があります。
●「お城の舞踏会を無かったことに」(「パラレルワールドの不条理」シリーズ第6作)
https://kakuyomu.jp/works/16818093084740503379
●「由希は仲良し3人を理解できないが羨ましく思う」(「パラレルワールドの不条理」シリーズ第5作)
https://kakuyomu.jp/works/16818093084705841049
合わせてご覧いただけると幸いです。
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