第45話 「ふともも」さんの魅力

 本日2本目のクエスト「迷い猫探し」をマオ&田中さんの抜群の索敵能力であっさりとクリアーした俺たちは、なるべく早く冒険者ランクを上げるべくこの日3本目のクエストへと挑んでいた。


「楽勝だな~、冒険者!」


 夕暮れ。

 各家の煙突から嗅いだことのないスパイスの匂いが立ち込めるの街の中。

 そこを制服姿の是野ぜのが、まるで渋谷センター街を歩くギャルかのように闊歩している。


「ふむ、しかし次は戦闘が必須らしいからな。油断はしないほうがいい」

「え~、でも戦うの結局うちらじゃん? 大したことなくね? 相手ゴブリンとかいう雑魚モンスターだろ?」

「油断大敵、一時が万事、塞翁が馬、お備えあれば憂いなし、だ」

ひじりっち~、難しいこと言うなって~」


 さっき教えてもらったんだが、夕方以降はテイムしてる魔物を連れて街を歩いてはいけないらしい。

「テイム中」って書いてるタスキも見えにくいし、魔物が襲撃してくるとしたら、それはたいてい夜だからだって。

 ってことで、 人間姿に戻ったエイリアンたちと町外れのゴブリンの集落へと向っている。

 制服姿の入江たちは、やはりこの世界では異質。

 めっちゃ注目される。

 むしろエイリアン姿の時より注目されてるくらいだ。


「おいおい、どこの娼館にあんな高ランクが入ったんだよ!」

「まぶすぎなんだけど! ってか、えっっっっろっ! なにあの格好!」

「あんた! なに見てんだい!」

「ちがっ……俺はあの少年をだな……」

「まさかあんた、そっちの趣味が……!?」

「ちがっ、ちが~う! 俺はオマエ一筋だっての!」


 そらそうなるよね。

 日本でも見るもん、こんな集団いたら。

 ギャル。

 お嬢様。

 クール系美女。

 アイドル。

 芸能人御用達学校でもこんな美少女集団が集まるなんてことまずないだろう。

 しかも制服姿。

 ミニスカ、白ハイソックス。

 どうやらこの黄金の組み合わせの魅力は異世界でも通用するらしい。

 次元超えちゃってるよ「ふともも」さんの魅力……。

 ぱねぇぜ……。


「しっかし、ウチらこのまま冒険者で食っていけるんじゃね?」

「だね~、今日こなした2本のクエストの報酬だけで結構あったし~」

「うむ、今まで日本でひっそり力を潜めて暮らしてきてた反動で思う存分力を振るえるのも気持ちいいな」

「あの、みなさん? その力はあくまでアマツキくんを守るためにあるんですからね?」


 すっかり忘れかけてたことを入江が思い出せてくれる。

 そうだ、俺には【宇宙遺伝子ソロンα】と【万能遺伝子バースΩ】っていうのがあるらしく、その影響で俺が18才を迎えた時になにかが起こるらしいから、それを観測するのにこいつらエイリアンが人間に擬態してそばで観測してたらしい。

 で、なんか悪いことが起こるようなら……是野ぜのが俺を殺すんだって……。


(……こっちで18才を迎えたほうがよさそうな気もするな)


 テイム能力でこいつらを支配できるから。

 それなら最悪殺されるってことにはならなさそう。

 それに……こっちにいればさ、その「遺伝子」とやらの影響も出ないかもしれないし。


(あれ、もしかして日本に帰らないほうがいいのでは?)


 日本での生活を思い返す。

 狭い自室。

 無関心な親。

 いない友達。

 登校日数のノルマをこなすだけの学校。

 ただ天体を見ることだけが楽しみだった日々。

 

 それがこっちでは……。

 デカいお館住まい、美少女メイド付き。

 超美少女4人と同居。

 おまけにふさふさであったかい猫もいる。

 それから姫のロゼッタとも絆のようなものをちょっぴり感じるし、近衛騎士団隊長のクルスからも「領地を治めてくれないか」的なことを言われてる(リップサービスだろうけど)。


(……正直こっちの暮らしの方がいいような気がする)


 けど、天体。

 こっちには天体を満喫できる望遠鏡がないからなぁ。

 俺だけが見つけてる星『DX39Nでぃーえっくすさっくん』も、俺のいない間に向こうで誰かに発見されたら嫌だなぁ。

 あとトイレ。

 こっちはウォシュレットとかないからね。

 ぼっとん便所ですよ。

 さすがにこれでは美少女に囲まれててたとしても、百年の恋も冷めるってなもんだ。


(総合的に見ると、まだ「帰りたい」寄りだな……)


 ゆらゆら左右に揺れる心の中の天秤。

 まぁ、とりあえず王様から帰還の方法を聞いてから考えればいいか。

 そんなことを思ってると街を抜け、いつぞやかロゼッタが案内してきた高台に。


「あ~、やっぱこっちにゴブリンいるんだ」

「前の残りがいるとか?」

「田中さん」

「はぁ~い」

「にゃ(尻尾パタッ。みんながエイリアン姿にシュゥゥゥン──)」


 すっかり慣れたもんで、まずは田中さんが上空に飛んで偵察。


「え、あれ? ゴブリン死んでるんだけど」

「死んでる?」

「うん、殺されてる。惨殺」

「もう誰かに討伐されたってこと?」


 ギリッ……。そんな微かな音を耳が拾う。

 寒気。


「マオ! 田中さんを元に戻して!」

「にゃ。(尻尾パタッ)」

「きゃっ!」


 人間姿になった田中さんが飛行能力を失って落下してくる。

 直後、田中さんのいた場所めがけ、矢が四方八方から飛んでくる。


「マオ、もう一度!」

「にゃ。(尻尾パタッ)」


 再びミニチュア姿に戻った田中さんがギリギリでホバリング。


「な、なにっ!? なんなのっ!?」

「待ち伏せされてたみたいだな」


 俺たちは背を合わせ、周囲を警戒する。


 ガサッ……。


 草むらから男たちが姿を現す。


「チッ、勘のいいやつだ! 大人しくやられてればいいものを!」


 約十人。

 冒険者風。

 あっ、あのお漏らしカンマ・セイヌもいる。

 ってことは、やっぱりこいつらは冒険者……!


「チェクト様、こっちの方が人数多いんだ! あんな奴ら一気に畳んじまいま……ぶへぇ!」


 カンマの顔に「チェクト」と呼ばれた男の裏拳がめり込む。

 チェクト?

 どこかで聞いた気が……。

 あっ。

 思い出した。

 たしか……。


 冒険者ギルド長ヘラクと対立してる【ギルド長補佐役】。

 それが、チェクト。

 俺は汚いものに触れたかのように拳をハンカチで拭いているチェクトを見つめ、愛刀【流星剣シューティングスター】を構えた。

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