第44話 楽勝、初クエスト

 クエストの内容は『王都を出て20分ほどの森で薬草を採取していくる』というものだった。

 俺たちは摘んでくる薬草をメメさんに確認させたもらうと、さっそく森へと向かって出発した。



 ザ、ザザ……ザザ……。


「やっぱり注目、されてますね……」


 俺とマオはエイリアン姿の是野ぜのの、入江はひじりの上に乗って移動している。

 その俺たちに王都イーヴァルの人々の視線が刺さる。

 いや、だってさ。

 王都を出て20分とはいえど、いかんせんその王都が広いわけで。

 少なくとも渋谷から原宿以上の広さは余裕である。

 一回渋谷から新宿まで歩いてみたことがあるけど、もう二度とあの距離を歩こうとは思わない。

 だから「王都を出て20分」って言われても、まずその王都を出ることに時間がかかるわけ。

 ってことで、足の早い是野ぜのひじりに乗って移動してるってわけ。

 たださ、エイリアン姿で町中を闊歩するのはあまりにも物騒ということで、俺の肩からは冒険者ギルドから与えられたタスキがかけられていた。


『テイム中です(現地語)』


 なんか宴会用の「本日の主役」みたいな感じのあれ。

 恥ずかしい。

 街の人も慣れたもんで、見てはくるけど怯えてはいない。

 そんなに絶大な信頼が寄せられてるんだな、このタスキ……。

 にしても恥ずかしい。

 人々の視線はまずエイリアン、次にタスキをかけた俺に向けられる。


「ほ~、若いのにこんなに凶暴そうな魔物をテイムするとはやるのぅ」

「ママ~、あれ……」「ダメです、見ちゃ!」「え~!」


 あ~……あれだ。

 俺、大型犬を散歩させてる動物専門学校の学生とか「バーニラ、バニラの高収入~♪」のアドトラックとか、そのへんをごちゃまぜにした感じで見られてるんだ。

 ぐぎぎ……注目されることに慣れてない俺にとっては結構な苦痛ぜよ……。


 あのさぁ~……こう見えても俺たちは「モンスターテイムトーナメント」の準優勝者だったりするんだけどなぁ~……。

 まぁ、決勝ではあっさり負けたうえに? 二回戦は不戦勝だったせいで、認知は全然されてないっぽいけどさぁ……。


 で、でも……!

 俺たちは、あの「天才何でも屋」渇蠍かつかつをあと一歩のところまで追い詰めたんだぞ! えっへん!

 ……まぁ、それも王様や姫のロゼッタ、近衛騎士団隊長のクルスたち以外には知られてないんだが。


 そうは思いながらも、俺のテイム能力によって調された是野ぜのの乗り心地はなかなかよく、硬い甲殻の肌触りにもすっかり慣れてきた頃には、無事に目的の森へとたどり着くことができた。


 

「え~っと、じゃあマオが結界的なもので索敵して。で、安全そうなら田中さんが空中から目標確認。是野ぜのは田中さんの護衛で一緒についていって。ひじりと入江、それに俺とマオはここで待機して退路を確保。いいね?」


 みんなの背中がシャキッとする。

 これが、さっき使えるようになった「テイム能力」の影響。

 言い換えるなら「エイリアンに絶対なんでも絶対言う事をきかせられる能力」。

 こわっ。アンドえぐっ。

 でも、おかげでエイリアンたちの裏切りを気にしないでいい。

 なんたって是野ぜのは「緊急時には俺を殺す」って宣言してたからな……。

 ってことで、この力はめちゃ助かるし、決して仲が良いとは言い切れないこいつらも俺がビシッとまとめてやった方が諸々いいと思う。

 ただ……。

 入江。

 入江に関しては元が穏やかで従順な子なだけに、「命令」して言うことを聞かせるのはちょっと気が引ける。

 ……が、まぁいい。

 日本に帰るためだ。

 入江には申し訳ないが、この「エイリアンテイマー能力」でみんなを上手く使役して冒険者をやってく必要があるんだ。


「にゃ。このあたりはもう調査済みにゃ。小さい野生動物がいるだけで危険は少ないにゃ」

「んじゃ、私行ってくる~! 是野ぜのっち護衛よろ~☆」

「チィ~……。なぁ? ウチもソラと一緒にいちゃ……」

「ダメ。適材適所だから。是野ぜのしてるから田中さんを任せるんだぜ?」

「し、信頼……!? ソラがウチのことを信頼……! あんなに遊びに誘っても見向きもしてくれなかったソラが……! よしよし、この調子ならいつかソラに卵を……」

「植え付けられね~よ! テイマーとして命ずる! 卵、産み付けるなかれ!」

「え~! そんな~! 殺生だぜ~!」

「そもそも卵産み付けられたら死ぬからな、俺!?」

「死なないようにするから~!」

「ダメ~!」


 そんな押し問答をしながら是野ぜのは渋々森の中へ。


(ふぅ、これで卵産み付け問題もクリアー。まったくテイマー能力様々だぜ)


 と思ってると、ひじりがとんでもないことを言い出した。


「ふむ、貴様は生殖行為が嫌なのか?」

「は……はぁ!? な、なに言ってんのぉ!?」


 声が裏返る。


「いやな、貴様は生殖行為自体が嫌なのか、それとも是野ぜのとの生殖行為が嫌なだけなのか……」

「死にたくないだけだって! 死ぬじゃん! あのタイプに卵産み付けられたら! 映画とかでブワーなるじゃん!」

「ふむ、では生殖行為自体はやぶさかではないと?」

「やぶさかであるもないもわかんないから! したことないから! そもそも卵産み付けられるのは俺の中で生殖行為に入ってないから!」


 こんな話をエイリアンとしてる俺って一体なんなん?

 あまりの非現実さに照れも引っ込む。


「ア……アマツキくん!」


 切羽詰まった入江の声。


「え、な、なに?」

「私は……子ども欲しいです!」

「? う、うん」


 よくわからん宣言。

 どうしていいかわからず適当に頷いたら、入江の顔がぱぁと輝いた。

 え、なんか誤解……。


「にゃ。今夜は騒がしくなりそうにゃ」

「え、いや、マオ? なに言ってんの?」

「ふむ、ではそこに私も交えてもらえはしないだろうか」

「だから何の話~~~!?」


 その誤解を解く前に、田中さんのきれいな声が「あったよ~!」と響く。

 で、何事もなく無事薬草回収。

 帰りもタスキをかけてライドオン是野ぜの

 来た時間よりも早い時間で帰還。

 冒険者ギルドのメメさんには「え、こんなに早くですか!?」と驚かれた。

 なんでもクエスト達成の最短レコードらしい。

 まだ午前中だもんな。

 ってことで、せっかくなので他にもクエストを受けることにした。

 だって、早くランク上げて。

 王様のクエストやって。

 んでもって、さっさと帰りたいからな。

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