第43話 魔王はスルーで

「えと……たぶん魔王の居場所、わかっちゃったんだけど……」

「魔王?」

「うん、魔王……だと思う。こっちの方向」


 つられてみんなが窓の外に顔を向ける。


「たしかにそっちは魔界。魔王プレドがいる方向ではあるが……」

「え、ちょっと待ってください? エイリアンテイマーのアマツキさんが捕捉できたということは……?」


 ヘラクとメメが困惑の表情を浮かべる。


「ああ、おそらく魔王はエイリアン、で間違いないと思う」


 間。



『えええええええええ~~~~~!?』


 

 声でギルド長室が揺れる。


「いいい……今まで謎中の謎とされていた魔王の正体が【エイリアン】という亜人だった、ってことですかぁ!?」

「いや、それなら今までどんなテイマーの網にもかからなかったのも頷ける。魔王はモンスターではなかったのか……」


 歴戦の冒険者たるギルド長と冒険オタクことメメさんが揃って目を丸くする。


「魔王の話を聞いた時からなんとなく予感はあったんだけど、どうやら間違いないみたい。魔王プレドはたぶん【プレデター】っていう俺たちの知ってるエイリアンだと思う」

「つまり魔王はアマツキと同郷……?」

「いやいや、違う。俺はプレドのことを知識として知ってるだけで、まったく違う生物だ。【エイリアン】ってのも日本で言う【亜人の総称】みたいなもんで、実際には見たこともないし同じ地方に住んでるわけでもない」

「なるほど……なんとなくはわかった。で、どうだ?」

「え、どうだ、って?」

「出来そうか?」

「なにが?」

「だから……」


 ヘラクの筋肉のぎゅうぎゅうにつまった筋肉顔がギュギュギュと音を立てて詰め寄ってくる。


「あっ、うん……どうだろう……? テイムの感覚ってまだ曖昧だしさ」

「そうか……」


 嘘。

 実はできそうな気がする。

 テイマーってやつの直感?

 めちゃめちゃテイムできる感覚がある。

 しかも俺、なんかオーラ的なものを感知できるようになっててさ。

 プレドのオーラはめっちゃ寂しそうな藍色に見えるんだよね。

 すごい寂しがり屋な印象。

 なんか……超チョロくテイムできそうな予感……。

 でも面倒くさいので言わない。

 だってもう王様から日本に帰れる手段を得られるんだし。

 わざわざ情報を持ってるかどうかもわからない魔王なんかに構ってる暇はない。

 ってことで魔王は完全スルー!


「いや、しかし魔王がエイリアンというものだとわかっただけでもすごい発見だ。なんせこれまで500年、だれもプレドの正体を明かしたものはいなかったのだからな……」


 え、500年?

 500年も前からプレドってこの世界にいるの?


「え~っと、転移の際に亜空間内で時間軸がずれることも多々あるので……」

「にゃ、チミらと同じ時間軸にたどり着くことのできたワチはとんでもなく優秀だってことにゃ」


 なるほどね。

 なんか500年間ずっと一人ぼっちだったプレドが可哀想になってきた。

 けど、そんな気持ちもこれからやらなきゃいけないことの前では一瞬で吹っ飛ぶ。

 メメさんの説明によると、俺たちはこれから王からの依頼クエストを受ける資格を得るために『冒険者ランク』というのを上げなければいけないらしいのだ。

 融通を利かせてもらえないのか聞いてみたが、そこだけは絶対に決まりとして譲れないらしい。

 はぁ……仕方ない。

 王からの依頼クエストを受けるには冒険者ランク【B】が必要だということで、俺たちはそこを目指す。

 まずは【F】から。

 メメさん曰く。クエストをこなしていく中でこの国のこともわかっていくし、冒険者としての経験も積んでいけますよ。ということらしい。

 う~ん、別にこの国の知識も冒険者としての経験も必要としてないんだけどな……。

 まぁ、いい。

 日本に帰ることのできる道筋がはっきりと定まったんだ。

 あとはやるだけ!

 ならさっさとやって、さっさと帰ろう!


 こうして俺たちは、メメさんから簡単な説明を受けて最最低難度クエストを受けることとなった。


【クエスト難度F 『薬草を採取せよ』】

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