第42話 冒険者登録(テイマーとしての覚醒)

「さぁ、見せてもらおうか、お前たちの真の姿を」


 そんな余裕ぶった悪役みたいなセリフを冒険者ギルド長ヘラクは言い放った。


「あ、えっと、あなた達はテイマーさんと、それに使役されてるモンスターさんなんですよね? 今は人間に擬態されてるようなのですが、一旦元の姿を見せていただいたほうがこの先の冒険者登録がスムーズに進むかと」


 丸メガネ、癖っ毛オレンジ髪三つ編み、そばかす、というギルド職員メメさんが早口で素早く補足する。


「あぁ、なるほど。マオ?」

「にゃ」


 俺の膝の上のマオが尻尾を逆に振ると、美少女女子高生入江たちがエイリアンの姿に切り替わる。


「……! これは……!」


 メメさんが息を呑む。

 そりゃそうだよな、女の子がいきなりこんな造形の生物を見せられたら……。



「かわい~~~~~~~~~!」



 …………は?


「すっごくキュートです! なんですかこの頭蓋骨、中にいっぱい脳が詰まってるのでしょうか!? それとも空っぽ? や~ん、皮膚もゴツゴツしてて強そ~~~!」

「ちょ……おいっ! やめろって! 頬ずりするな、このやろ~!」

「ふむ……やめ……おい、やめろ……私のアームをひっぱるな……」

「な、撫で回すのやめてくださぁぁぁ~い……」

「やめ……全身に顔くっつけるのやめて~~! 息が生温か~い!」


 あの是野ぜのたちがタジタジなんだけど……。

 エイリアンの一番の天敵では? という勢いでがっつきまくるメメさん。


「見ての通りの変人でな」

「初めて見た、エイリアンを見てたじろがない人間」

「心底好きらしくてな。冒険と、それにまつわるものが」

「マニア……?」

「そうとも言えるな。色んな冒険譚に触れるために職員になったという根っからの変わり者だ」

「趣味と実益を兼ねてってやつか」

「私の冒険者時代のファンだったらしくてな。今でも慕ってくれてる唯一の部下なんだ。腕と知識は確かだから信頼してやってほしい」

「ええ。逆に信用できますよ」


 オタクの方がね。

 俺も人付き合いとか得意な方じゃないからな。

 こういうわかりやすい相手のほうがやりやすい。

 俺自身が天体しか興味なかった天体オタクだし。

 余裕ができたらこっちの天体もじっくり見てみたいなぁ……。

 なんて思ってると、メメさんが是野ぜのの甲殻をぱちんとはたいて朗らかに告げた。


「うん、いけると思います!」

「ああ、そう……。なら、さっそく登録を……」

「その前に説明をさせてください!」

「お、おう……」


 しゅるり──とメメさんは黒板に丸を書く。


「まず、これがテイマーさん、あなたです!」

「お、おう……」

「冒険者として登録するということは、冒険者として職業を登録することになります」

「なるほど」

「その際の職業なのですが……まず、あなたが【テイマー】さんでよろしかったですね?」

「う、うん……」


 勢いに飲まれて頷く。


「で、残りの4人の方は【亜人種】でらっしゃるので職に就くことが出来ます。これが完全な【モンスター】だったら無理だったんですけど」

「亜人種とモンスターの違いって?」

「魔力、ですね」

「魔力?」

「ええ、正確には【魔力の質】ですね。魔に染まった魔力の持ち主──いわゆる一般的なモンスターは職業を得ることが出来ません」

「それはなにか理由が?」

「魔のものは神の敵だからです。職業というのは神からの人類への贈り物なのですよ」

「そうなんだ。もしかして【スキル】とかってのも使えたり……」

「もちろん。進むべき道を定め、技を研鑽する。その努力や才能が認められた時に神から【スキル】という形で恵みが授けられます」


 俺の頭に、闘技場で戦ったソー・クヴァック・アニマの『自傷的自縛回転木馬地獄カルーセル・モルティ・ヴィンクラトゥス』や渇蠍かつかつの手品のようなアイスピックさばきが浮かぶ。

 ああいうのもきっとスキルだったんだろうな。


「わかった。具体的な手続きは?」

「はい、こちらにご記入いただくだけです」


 差し出されたのは一枚の羊皮紙と万年筆。

 不思議と文字が読めるし、書ける気もする。


「みんな、希望は?」

「冒険者とかよくわかんねぇからソラが決めてくれ」

「うむ、それがよかろう」

「よろしく~☆」

「わ、私もアマツキくんの決めてくれたので……決めてくれたのがいいです!」

「う~ん、そっか~……」


 じゃあ……。


 是野ぜのは脳筋格闘型だから【武道家】。

 ひじりは手術とかできるから【回復師】。

 田中さんは上空から偵察できて声も通るから【斥候】。

 マオは結界的なのを張れるっぽいから【術師】。

 入江は……なんだろう?

 腕が伸びて、体を硬く出来て、足が遅くて、優しくて思いやりがあって……。

 誰かが困ってる時に「いの一番」に動き出すことができる人。

 ちら、と入江に視線を向ける。

 エイリアン姿の入江が不思議そうに小首を傾げる。

 俺はうんと頷くと、羊皮紙に【盾職】と書き込んだ。

 そして、最後に俺の名前と【エイリアンテイマー】と書いた瞬間。


 ぱぁぁぁぁぁ!


 と、羊皮紙が光り、俺たちの体があたたかなぬくもりに包まれた。


「おめでとうございます! これで貴方がたは晴れて冒険者と相成りました!」

「へぇ? 別になんか変わった感じもしねぇけどな?」


 あっけらかんとしてる是野ぜのたちをよそ目に、俺は感じていた。

 お、俺……。



(めっちゃ出来る気がする……!)



 なんだろう、今まで話の辻褄合わせるためだけに名乗ってた【エイリアンテイマー】という職業。

 それが、正式に署名して神とやらの恩恵を得たせいでめちゃめちゃ開花した感覚がある。


「田中さん?」

「は? なに~?」


 ためしに一番俺の言う事を聞かなさそうな田中さんに命令してみることにする。


「ゆっーくり宙返りしてみて」

「はぁ~? なんでそんなこと……するわけ、って、え、えぇぇ~~~!?」


 言葉と反してミニチュアサイズの田中さんは超スロースピードで縦に一回転し、涙目でスカートを押さえる。

 あ~、これはやっぱり……。


ひじりはツーステして。是野ぜのはぶりっ子。マオは直立。入江は問題ない範囲でギリギリまで柔らかくなってみて」


 目の前に繰り広げられる光景。

 ズザ、ズザザとツーステを踏むひじり

 その横で拳を口に当ててぶりっこしてる是野ぜの

 ゆ~っくり宙返りし続ける田中さん。

 テーブルの上に直立してる猫のマオ。

 そして、ぷにぷにしたお餅状になってる入江。


(え、なにこれ、カオス…………)


 混沌とした室内を前に呆然と立ち尽くす俺、ヘラク、メメさん。


「テイマーの中でもここまで強制力をもった者はそうおらんぞ……!」

「すごい! すごいです、アマツキさん! これだけ使役できれば、きっとすぐにランクも上がりますよ!」

「急にこんなに強制できるようになったのってさ、やっぱり神の力ってやつのおかげなわけ?」

「ですです! あっ、でも普通の人じゃ無理ですよ!? よっぽどテイマーとしての才能が秘められてたんですよ! その才能が登録によって解放されたのかと!」

「そうなんだ……。ちなみにテイマーって命令以外になにが出来たりするのかな?」

「あとは対象の気配を察知的できたりするな」

「気配?」

「ああ、テイムする職業だからな。テイム出来そうなモンスターの居場所がなんとなくわかったりするらしい。お前の場合はテイムできそうな【エイリアン】の気配がわかるんじゃないか?」

「へぇ~」


 っていってもこの世界にエイリアンなんかいないからな。

 意味ない能力だね。と思いつつ、直感で周囲をみる。


(…………!?)


 え? あれ?

 目の前のエイリアンの数、5人。

 それと別にクソデカい気配が一個、遠方にあるんだけど……。

 そこで俺は思い出した。

 魔王プレド。

 十中八九「プレデター」の存在を。

 あ、うん。

 俺、テイム出来ちゃうんだ……この世界の魔王……。

 そんな面倒くさそうなを悟られないように、おれは真顔ですっかりぬるくなったお茶をぐびりと喉に流し込んだ。

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