第22話 アルティメット・デモン・スターツ

「解説おじさん」と名乗る変な爺さん。

 妙に身なりのしっかりしたそいつについていき、俺たちは関係者席へとやってきた。


「おお、空いてるじゃないか」


 解説おじさんは乱暴に木の扉を開け放つ。


(おいおい……自分じゃないんだから……)


 ズカズカと中に入っていった解説おじさんは、「ここ! ここからがよく見えるんじゃ!」とウキウキで一番いい席に腰掛ける。


「なぁ……あれって、誰?」

 小声でロゼッタに聞く。

「さ、さぁ……存じ上げま……せん」

 微妙な答え。


「なぁ、バロムのおっさ……」

「ごほんっ! わ、私はここで見張っている! ささっ、みな中へどうぞっ!」

「お、おう……。なんだよ、2人して……」


 妙な雰囲気の中、俺とエイリアンズは関係者席へと入っていった。

 中は狭く横長。

 野球の解説席みたいな感じ。

 俺は解説おじさんの隣に腰掛け、さっきの話の続きを聞く。


「よいしょっと。で、さっき言ってたロゼッタの【特異体質】ってのは?」

「文字通り、生まれ持っての体質じゃよ」

「その体質はみんな知ってる?」

「いや、一部の者だけじゃな」

「ふ~ん、特異体質ってのは一般的によくあったりするのか?」

「珍しいな」

「傷を治すってのは?」

「超レアじゃな」

「超レア……」

「SSRじゃ」

「SSR……」

「神引きしたくらいの確率じゃな。引き強じゃ」

「おい、ちょっと待て」


 出てくる単語が現代日本すぎる。


「すまぬ、すまぬ。ちょっとづいててな。おっと、なんて言っても、お主らにはわからぬか。まぁ、よい、試合が始まるぞ」


 は?


「いや、ちょっと待てよ……! あんた今、って……」


 ワァァァァァァァァァァァ!


 俺の声は歓声にかき消される。

 第2試合の両先鋒が試合場中央に出揃ったらしい。


「っ~~~……」


 おいおい、せっかく日本のことを知ってる奴が横にいるってのにお預けか……?

 はぁ……仕方ない、この試合が終わってから聞くとしよう。

 関係者席の中の一番奥に解説おじさん、その隣に俺、そこから順に入江、是野ぜのひじり、田中さん、ロゼッタと座り、入口横にバロムのおっさん。

 それぞれが席についた時、司会の声が響いた。



「1回戦第2試合、スタァァァァァァトォォゥ!」



 『アルティメット・デモン・スターツ』

 デュオのチームの先鋒は、緑色の肌をした巨漢のホブゴブリン。


災尤さいゆうバッファローズ』

 相手チームの先鋒は、鼻息荒く拳をガツンとかち合わせてるミノタウロス。


 デカくて分厚い二匹のモンスターが、試合場中央で額を押し付けあってガンを飛ばしている。


「おほ~! ええのう、ええのう! 『アルティメット・デモン・スターツ』はゴブリン系モンスターで統一! 『災尤さいゆうバッファローズ』は牛系モンスターで統一! 同系統のモンスターであれば同時に管理しやすいからのう! こうやって複数のモンスターをテイムするなら、同種染めは定石! 『アルティメット・デモン・スターツ』は【レッドキャップ】や【英雄鬼チャンプ】という強キャラがおるから、その分のコストのしわ寄せで【ホブゴブリン】や【シャーマンゴブリン】という低級モンスターを使役しとるが、それでもやつらのレベルは高いと見た! 対する『災尤さいゆうバッファローズ』は中級モンスターで揃えて、やはりこれも鍛えられておる! こっちは先鋒の【ミノタウロス】で確実にまず1勝取っていきたいとこじゃのう」


 解説おじ、めっちゃ解説するじゃん。

 しかも「同種染め」とか「コスト」とか「レベル」とか、完全にカードゲーム感覚。

 まぁ、わかりやすいから助かる……か?

 けど、今までめっちゃファンタジーで来てただけに違和感もすごい。

 いったい何者なんだ、この爺さん?


 そんな爺さんの小気味いい解説を受けながら、試合はテンポよく進んでいった。



 ◯ ホブゴブリン vs ミノタウロス ●

 結局ミノタウロスは「武器持ち込み不可」が影響し、素手を得意とするホブゴブリン粘り負け。


 ◯ シャーマンゴブリン vs 暴れ牛鳥 ●

 シャーマンゴブリンの【幻術】に引っかかった暴れ牛鳥は、闘牛場の牛のようにあしらわれて、最後は壁に突撃して自滅。


 ● 英雄鬼チャンプ vs くだん ◯

 ステゴロならゴブリン族最強と名高い【英雄鬼チャンプ】は、牛の妖怪【くだん】をボコボコの再起不能直前まで無傷で追い詰めてから、棄権。


 ● レッドゴブリン vs 牛鬼 ◯

 レッドキャップも、牛と蜘蛛の妖怪の【牛鬼】を一方的にボコったあとに、棄権。



 こうして『アルティメット・デモン・スターツ』は、相手のモンスター4匹を全員再起不能に陥らせ、わざと大将戦へともつれ込ませていた。


「あいつら先に3勝出来たってのに……」

「それだけ自信があるってことじゃろうな、大将戦に」

「でも【テイマー】って別に戦士じゃないんだろ? なのにわざわざ……」

「戦士じゃなくても強いやつは世の中いくらでもおる。例えば……ワシとかな!」

「いや、たしかに強そうっちゃ強そうだけど、さすがに年だろ。っていうかそもそも爺さんが戦士かそうじゃないかなんて知らんし」

「わはは! そりゃそうだ!」


 なにが楽しいのか、爺さんは愉快そうに笑う。


「けどよぉ~、デュオチームのテイマー。ありゃ~、随分とやると思うぜ?」

「うむ、ここまでただ立っているだけだが、あの気配の消し方はただ者ではない」

「一番アマツキに近づけたくない感じ~。ああいう人種って初めて見たかも。きも~」


 うちのエイリアンたちがデュオチームのテイマー、外套を被って突っ立っている男に警戒の色を露わにする。


「バロムのおっさんは、あのテイマーをどう見る? 元最強闘士としてさ」

「……まさか。いや、でも、しかしそんなはずは……!」


 あれ、なんか動揺してる模様で上の空。

『アルティメット・デモン・スターツ』の異様な戦いっぷりに、闘技場全体もさすがに引いている。

 その場内に──音が響く。


 カツ……カツ……カツ……カツ……。


「そんな……! そんなハズはない……!」


 バロムのおっさんが青ざめる。


「バロムよ……大丈夫か?」

「え、ええ……お気遣いありがとうございます」


 解説おじさんが、バロムを気遣う。

 どうやら顔見知りらしい。


 カツカツと鳴る音が次第に早くなり、男がローブを跳ね上げる。

 跳ね上げたローブとともに宙に光るものが8つ。

 姿を現した貧相な男は脱いだローブを素早く腰に巻くと、それぞれ指の間に8つの光り物を挟んだ。

 アイスピック。

 男の両手には、まるで是野ぜのの爪かのように8本のアイスピックが握り込まれている。


渇蠍かつかつ……」

「あ? かつかつ?」

「そんな……帰ってきたのか……!」


 バロムのおっさんが膝から崩れ落ちる。


「誰?」

「当時無敗だった私を、卑怯な手で再起不能に陥れた……仇だ!」


 ガリッ──!

 おっさんの噛んだ奥歯が、砕ける音がした。

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