第23話 渇蠍という天才
試合開始と共にギブアップしようとした敵のテイマーの口を両手のアイスピックで刺す。
直後に、
二の腕に、
脇腹に、
太ももに、
各2本ずつ。
計8本のアイスピックを突き刺すと「死んではいない。早く救助することだ」と言い残し、背を向けて試合場を去った。
試合終了のアナウンス。
あまりに一瞬の出来事に、会場も静まり返る。
それは、日頃のストレスを発散するスカッとした残虐ファイトを望んでいた観客の期待をあまりにも裏切った、一方的な蹂躙。
静けさを切り裂くように司会の声が響く。
「い……1回戦第2試合、勝者『アルティメット・デモン・スターツ』ッ!」
誰かが、口にした。
「おい……? アイスピック……って、あれじゃないか? ほら、最強の闘士だったバロムを倒して姿を消した……」
「
「そう……
「うぉぉぉぉぉ! 戻ってきた! 真の最強が! ここ、イーヴァルに!」
興奮はすぐに伝播していく。
たちまち会場は電気コンロのコイルが熱されるかのように熱くなる。
「はーはっはっー! どうだ、僕のチームは! 最強! スターツの次期王たる僕のチームは最強なのだ! 崇めろ、民衆! このデュオ・リンゴ・スターツをッ!」
関係者席までデュオコールの鳴り響く中、バロムのおっさんが頬の髭を指でかき分けて傷跡を見せてくれた。
そこには、今試合場で刺されたのと同じような傷跡が2つ。
「残りも見せようか?」
「いや、いい。おっさんの体なんてそんなジロジロ見たくねぇ」
「ふっ、言ってくれる」
「けど、あの
「ああ、私を倒したの一戦だけ。奴が闘技場にエントリーしたのは、その一回だけなんだ」
「おっさんをピンポイントで倒して、すぐいなくなったってこと?」
「そういうことだ。よって今まで何者なのかもわからなかった。名前以外は、なにも」
「解説おじさんの爺さんもわからないのか?」
爺さんは仙人みたいな、それでいて手入れの行き届いている髭をゆっくりと撫でると「何でも屋じゃ」と吐き捨てるように呟いた。
「何でも屋?」
「奴は何でもやる。すべてにおいてプロフェッショナル。それこそテイマーから遺跡の探索者、商売のコンサルタント、錬金術師、坑夫として金鉱脈を見つけ、冒険者としてはドラゴンもソロで倒したという噂もある。それが、あの
「なんじゃそりゃ……。本業はなんなんだよ?」
爺さんは眼光鋭く俺を睨むと、
「殺し屋、じゃな」
と、重い口調で続けた。
「マジか~……」
俺、二回戦で、
あれと当たるのか~……。
なにをしても天才の殺し屋と当たっちゃうのか~……。
死。
「うむ、棄権だな」
「ああ、ソラをあんなのに遭わせるわけにはいかねぇ」
「アマツキ以前にさ~、私らがあのモンスターたちに殺されちゃうって~!」
「一回戦はよくわからないまま勢いで出ちゃいましたけど、残念ですけどここで……」
うん、ヤバい。
ヤバいのはわかってる。
ただ、気にかかる。
そんなヤバいやつにロゼッタが狙われてるってことだろ?
棄権するのは簡単。
でも、じゃあロゼッタは?
今、ここで青い顔をしながらも気丈に振る舞ってるロゼッタはどうなる?
ふいに、俺の頭の中を太陽を中心に回る惑星たちのようにワードがぐるんぐるんと回る。
天才殺し屋。
テイマー。
コスト。
低級モンスター。
モンスターは武器使用不可ルール。
アイスピック。
同じ傷跡。
控室には進入禁止。
なのに、さっき控室を訪れてきたデュオ。
「もしかしたら、いけるかも……」
「え?」
太陽系でもっとも明るく輝く金星。
そんな金星級のアイデアが、俺の中で固まりつつある。
「かけてみない? ──闇討ち」
「ほぅ」
解説爺さんの顔が、にわかにほころんだ気がした。
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