第24話 レッツゴー闇討ち

 闇討ちの詳しい打ち合わせをしようと、俺たちは控室へ戻ってきていた。


「じゃ、ワシは次の試合見に行くんで!」


 関係者席を出ると、解説おじさんはそう言い残して颯爽と立ち去っていった。

 え、あの爺さん「」がどうのこうって言ってたのに……。

 後でまた掴まえて話を聞かないと、だな……。

 それよりも、今は──。


 ガチャッ!

 ササッ! キョロキョロ……。

 バタン!

 シ~ン……。


「よし、誰にも聞かれてないな」


 控室の扉を後ろ手に閉めて小声で呟く。


「で、なんだよ闇討ちって」


 是野ぜのが律儀に頭をひっつけて小声で返す。


「いいか? エイリアン姿のお前たちを連れてここで俺たちが暮らしていくには後ろ盾が必要だ。いいな?」

「うむ、認めたくないが我々はここではモンスター扱いされるようだからな」


 ひじりも頭をひっつける。


「で、ロゼッタだ。姫だ。これ以上の後ろ盾はない」

「今日もロゼちゃんと一緒だったから誰にも襲われなかったもんね~☆」


 ミニミニサイズの田中さんが俺のジャケットのポケットに入る。


「そのロゼッタがデュオと渇蠍かつかつたちに狙われてる」

「でも、そのためにアマツキくんを危険に晒すことはできません!」


 入江が円陣の真ん中にスポっと入ってくる。


「じゃあ、俺が危険な目に遭わず、お前らも低リスクでやつらを倒す方法があるとしたら?」

「ふむ……では、聞かせてもらおうか。その作戦とやらを」

「いいか? ロゼッタ」

「でも、私なんかのためにそんな……」

「なんかじゃない。ロゼッタだ」

「私、だから……?」

「ああ、守りたいんだ。ロゼッタのことを」

「私の……ことを……」

「ああ、それからおっさんの宿敵の相手でもあるしな」

「むぅ……しかし、本当に危ないぞ?」

「大丈夫、たとえ向こうが【世界最強】だったとしても、こっちは【宇宙レベルのスケール】だから」

「はぁ……宇宙ってのがなにかよくわかりませんが……」

「まぁ話すだけ話してみるがいい」

「わかった、俺の作戦はこうだ」



 【作戦披露~☆】


 まず、向こうの控室へと踏み込む。

 予想外の襲撃にびっくりしてるデュオたち。

 やつらが固まってる間に素早く突っ込む。

 まず、渇蠍かつかつの相手は入江。

 入江のメタリックボティーにあのアイスピックは無力。

 そこで入江が渇蠍かつかつをにょ~んと伸ばした手で抑え込む。

 英雄鬼チャンプには是野ぜの

 レッドキャップにはメス持ちひじり

 ホブゴブリンには田中さん&バロムのおっさん。

 で、シャーマンゴブリンには俺。

 これで敵全員を制圧。

 ポイントはスピード。

 いかに相手が動揺してる間に制圧できるか。

 奴らの戦力は見せてもらった。

 だが、俺たちの能力は未知数なはずだ。

 一か八かの命がけだ。

 けど、俺たちがこの世界で命をかけるべき瞬間があるとしたら、ここだろ。

 姫のバックアップ無しで、こんなモンスターと見間違われる奴らを連れてどうやって生きていけっていうんだよ。

 ここで命を張って貫き進まなきゃ、元の世界に戻るなんていつの話になるかもわからない。

 それに、あの解説おじさんも貴族っぽかったしな。

 姫の周りをうろちょろ出来なくなったらあの「ニホン」を知ってる爺さんにも容易く会えねぇ。

 かといってまともに一対一で試合しても無理。

 なら、闇討ちだろ。

 俺たちは試合に勝つためにここに来たんじゃない。

 ロゼッタの力になるためにここに来たんだ。

 なら、闇討ちだろ。

 目標は優勝じゃない。

 ロゼッタの危険を排除すること。

 だったらさ。

 闇討ちだろ?


 【作戦披露おわり~☆】



「闇討ちだな」


 我ながら強引だなとも思う作戦に、意外にも是野ぜのがあっさり乗ってくる。


「ウチらの役目はソラを守ることだ。そのために姫さんの力は必要不意可決。あのデュオとかいうクソ野郎が力になってくれるわけもね~しな」

「うむ、作戦はもっと練る必要があるが、闇討ちは合理的だ。いいと思う」

「私が最強の殺し屋を……。でも、うん、アイスピックなら……大丈夫だと思う」

「ちょ~、私を戦力に入れないでってぇ~!」

「田中さんは上空から戦況を見て指示出してよ。混戦になるからさ、司令役がいると助かる」

「え~? 司令はアマツキじゃないの~?」

「俺は戦うよ。頭数が足りないんだ。それに、俺だってみんなを守りたい」

「アマツキさん……」

「……その……いえ、でも……。……ええ、わかりました。……その代わり! 危なくなったら絶対にすぐ逃げてください! 約束です!」

「あぁ、約束だ。おっさんも力を貸してもらえるんだよな?」

「姫のためだ。その代わり期待はするなよ? 肩より上に腕が上がらん」

「上等。期待してるぜ、元最強闘士」


 みんなOK。

 もっと反対されるかと思ってた。

 なにか大きな熱気の渦のようなものに乗った気がする。

 まるで自分が流星群の中にでもいるかのような浮遊感……。


「はぁ~。それじゃ、ちょっと偵察行ってくるね? 足音立たない私が行ったほうがいいでしょ?」

「え、田中さん、助かる! でも、いいの? いっつもやる気なさげなのに」

「こういった偵察業務は私たちの種族の十八番おはこなの」

「ああ、元々俺を偵察してたんだもんね……」

「そゆこと~。じゃ、行ってくるから」


 俺は気を利かせて、扉を開けてあげる。

 ちっちゃい田中さんが出ていけるように。


 ガチャ。


 ──と。


「え?」

 え? 

「ぎょ?」

 ドアの真ん前に。




 レ ッ ド キ ャ ッ プ がいるんですけど?




 あれ……。

 これって、もしかして……。

 向こうもこっちにカチコミかけにきた的な……感じだったり……。

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