第21話 解説おじさん

 昨晩、俺たちを襲ってきた顔に傷のあるレッドキャップ。

 それが──ロゼッタの兄、デュオのチームに居る。

 つまり。


『ロゼッタを殺そうとモンスターを送り込んできていたのは、兄のデュオ』


 ってこと。ほぼ、確実に。


「あぁ……そんな……!」


 試合場から通路に戻った瞬間にロゼッタが崩れ落ちる。

 咄嗟に隣りにいたバロムが支える。

 ──自分の兄が、自分を殺そうとしてる。

 ロゼッタ。

 そんな事実、受け入れがたいよな。


「大丈夫か?」

「ええ……大丈夫です」


 ロゼッタは青ざめた顔で気丈に振る舞う。


「ロゼッタ様とデュオ様は腹違いのお子。ロゼッタ様の母君がどなたなのか、それはスターツ王と国の頭脳『三賢老トリニティ・アルカ』しか知りません。しかし、ロゼッタ様が王のお子であることは間違いないのです。ただ……ロゼッタ様にも『誰が母君なのか』がわからぬゆえ、こういった諍いが起きているのです。アマツキ殿……我々のお家騒動に巻き込んでしまい、申し訳ない」


 バロムが頭を下げる。


「頭を上げてくれ。俺たちもロゼッタには世話になってるし、こうして全員傷一つなく一回戦も突破できた」

「でも、アマツキさんのお鼻……」


 ああ、そういえば、さっきのソー・クヴァック・アニマとの戦いで鼻の頭にかすり傷が出来てたんだった。


「こんなの、なんてこたない。こっちで生きていくには、これくらい厳つい方がいいからな。むしろ自分でこんな傷をつけようかと思ってたくらいだ。ちょうどよかったぜ」


 なんて強がってみる。

 ま、実際心配されるほどの傷じゃないしな。


「アマツキさん……」

「だから、こんなの全然気にしなくてOK。わかった?」

「はい……。じゃあ、せめて……」


 え?


 人間ってさ。

 予想外の動きをされた時、固まるよな。

 実際、俺も固まった。

 だってさ。

 ロゼッタは、俺の首に腕を回すと。

 俺の、鼻の傷に。



 チュッ──。



 口づけ、したんだから。


「!? ちょぉ~っとぉぉぉ!? なにしてるんですか~~~!?」

「おいっ!? 姫さんっ!?」

「我々には【超壁者トランスセンデンサー】を保護するという役目があるのでな」

「ば~か! なにしてんだ、このブス! 淫売!」


 エイリアンたちが一瞬で間に割り込んでくる。


「……っと、田中さん? 今の発言、下手したら死刑になりかねないからね?」

「だって! だって……!」

「だって、じゃなくて」

「チッ、はぁ~い……」

「態度が悪いな……」

「あっ、アマツキくん、鼻の傷が……」


 ん?

 傷が……なくなってる?


「私の口づけは、傷を癒やすのです。あの……その……殿方にしたのは……初めて、なのですが……」


 顔を赤くして俯くロゼッタ。


「……そっか、ありがとうなロゼッタ!」


 なんて表では爽やかに例を言いつつ、裏では……。


 キスって~! と大騒ぎ。

 俺、生まれて初めてキスされちゃったんだけど!?

 しかも相手がお姫様!

 さらに「殿方には初めて」とか!

 うわ~。

 うわ~!

 やば、涙出そう。

 泣くとことか見られたくないかから、すかさず話題を変える。


「えっと、ロゼッタのそれって【スキル】とかそういう感じのやつなわけ?」

「今のは【特異体質】じゃな」

「ああ、そうなんだ。特異体質ね……って、あんた誰!?」


 振り向くとヒゲモジャの爺さんが立っていた。

 いや、マジで誰!?


「ワシか? ワシは……」


 爺さんはフフンと鼻を鳴らすと立派なヒゲをもったいぶるかのように撫でた。


「そうじゃな、ワシは──『解説おじさん』じゃ」


 か、解説おじさん……?


「お、ちょうど今から第二試合が始まるようじゃ! あっちの関係者席で観戦するぞい! ワシがたっぷり解説してやろうて、ワハハ!」

「は、はぁ……」


 こうして。

 俺たちは急に現れた解説おじさん(というか爺さん)と共に、第二試合を観戦することとなった。

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