第19話 命名『流星剣』

 ビュンビュンビュンビュンビュン──!


「人間コマ」こと『変態テイマー』ソー・クヴァック・アニマが、空気を切り裂き向かってくる。

 その切っ先は、すでに俺の顔の真ん前。


(くっ……!)


 とっさに体が動く。


 ドガガガがガガガッ!


 (……ッ! 間一髪──!)


 壁が削れる音。

 音の方を見る。

 そこには──まるで豆腐かのようにズタズタに斬り裂かれた石壁が。


(う、うそだろ……?)


「いいぞ~! やっちまえ~!」


 観客たちが囃し立てる。


(でも……これでソーの回転の勢いは……)



 ギュルゥィィィィィィィィィィン!


 

 落ちてない!

 むしろ増してるくらい!


「ぎょぴぴぴ……! 甘い、甘い甘いあっま~~~~~~い! 王都名物スイーツ甘王ニュグューよりもあんま~~~~いッ! 僕と書いてシモベたるしもべぼくは、疲れれば疲れるほど……ん゛、ん゛ぐぅ~……! 力が……湧いて……くっりゅのでぇぇぇぇぇぇぇぇしゅ!」


 変態ってここまでか?

 体力無尽蔵?

 なら、このまま躱し続けて相手の体力が尽きるまで待つってのも無理ゲー?


「ソラ! もう棄権でいい!」

「アマツキ~? 危ないからもう棄権しな、棄権~!」


 是野ぜのと田中さん。


 ……棄権。

 しようかな? 一瞬そう思う。

 ロゼッタの力にはなりたいし、デュオもムカつく。

 でも。

 でも、だ。

 俺はただの高校生だぜ?

 卵を産み付けるエイリアンでも。

 自傷しながら回転コマになる変態でもない。

 これ以上、命をかけて戦う理由がない。

 ……いいだろ、別に負けても。


「棄け……」


 棄権します。

 そう口に言おうとした瞬間、俺の目に入った。

 ロゼッタと、入江の姿が。


 ロゼッタは青ざめた顔でこっちを見てる。

 俺を巻き込んだ責任を感じてるのかも。

 大丈夫。

 だって、

『世界中に味方が誰もいなくなったとしても、俺が最後まで味方になってやる!』

 って言ったのは俺だもんな。

 まだ……まだ大丈夫。

 まだいけるはず。

 だからそんなに心配すんな、ロゼッタ。


 入江は泣きそうな顔をしてこっちを見ている。

 入江、人間時代はお嬢様。

 こっちに来てからもそのキャラは変わらず、いいヤツだった。

 普通なら生理的に受け付けられないはずのメタリックボディーも、その人柄の暖かさのせいでほとんど気にならないもんな。

『最高だぜ、入江のメタリックは!』

 しかも俺……こんなこと言って口説くみたいになっちゃったんだよなぁ。

 あれから特にそれについてお互い触れることもなかったんだけど……。

 こんな時に思い出しちまうってことは──。

 気にしてんのかな、俺。意外と。

 だから泣かせたくねぇなぁ、入江を。

 

 そう思った瞬間、頭の中で何かがバチッと弾けた気がした。

 星。

 地軸。

 回転……。

 さっきバラバラに頭に思い浮かんでいたワードの一つ一つが一瞬にして繋がっていく。

 ……うん。


 くるっ!


 振り向く。

 ソー・クヴァック・アニマに向けて全速力で走り出す。


「ぎゅぽぽぉ~? 気でも触れたかクソガァ~キィ~? 自分からミンチにされに戻ってくるとは、とぉ~んだ、お・バ・カ! 望み通ぉ~りズタズタズッタンに裂いてさしあげましょうかねぇ~~~~んッ! このっ、僕と書いてシモベたるしもべぼくがッ!」


 ソー・クヴァック・アニマの回転が増す。

 しかし、俺は止まらない。

 そのままソー・クヴァック・アニマに突っ込むと……。



 ズザザァ~!



 横を滑り抜けた。

 スライディング。

 鞭の射程は、鞭を持っている手の真横が一番長い。

 これは星の直径、つまり赤道部分(地球なら6,378 km)と同じだ。

 そして、その直径部分が一番回転の速度が早い(地球なら時速1,670 km)。

 なら、逆に「頭」や「足」……地球で例えるなら「北極」や「南極」部分は──。



「限りなく、!」



 ソー・クヴァック・アニマの背後を取った俺は、ゆっくりと木刀を構える。


「ぎゅぴぃ~? 一度や二度攻撃を逃れたところで僕と書いてシモベたるしもべぼくの体力は、ほぉ~ぼ無尽蔵ゥゥゥ! 今すぐに方向を転換して……」

「無駄だ」


 俺は木刀を構えると、ゆっくりとソー・クヴァック・アニマの周りを回った。

 すると当然、ソー・クヴァック・アニマはそれにつられて進路方向を変え……。


「衛星の完成、だ」

「はぁん? えいせぃい?」

「あぁ、そうだ。さっきまでのお前はただ自転するだけの星だった」

「あん? 星だぁ?」

「そこに、俺がこうして立つことによって、お前は俺に向かってくる。俺は少しずつ位置を変える」

「だぁ~から、なにを……」

「つまり、俺はお前にとっての【惑星】だ。これでもう、お前は俺の周りを永久に回り続けるだけの【衛星】となった。お前の【自転】に【公転】の力が作用されることとなったんだ。そして……こっからが本番」

「……」

「俺がかけた【公転】の力が、お前の【自転】と逆に働くように作用させたら……どうなると思う?」

「ぎょ……? えっ? あれっ……?」


 ソー・クヴァック・アニマの回転が次第に弱まっていき……。


 完全に──。


 止まった。


「うん、そうだな、これがいいかも」

「あえ? あえあえ? どうか……どうか命だけは……!」


 回転の止まったソー・クヴァック・アニマは、さすがにフラフラとよろけている。


「うん……そうだな、決めた。剣の名前」

「はにゃ……? なま……?」

「ああ、俺のこの愛刀の名前は、【流星剣シューティングスター】」


 ヒュン──!

 流星剣シューティングスターは、まるで嬉しいとでも言わんがごとく一段と眩しい光を放つ。


「そして、お前にふさわしいケツ末は……」

「ぎょぴぃ……そんな……ちょっと待っ……私はそっち系は……あぎぃぃぃぃ!」


 光の尾を放ち、流星剣シューティングスターは深々とソー・クヴァック・アニマのケツに突き刺さる。


「いくらハンパない変態といえど、こっちはまだ未開発だったみたいだな」


 口から泡を吐いたソー・クヴァック・アニマは、そのままがくりと崩れ落ちる。



「い……一回戦勝者、イーヴァル・エイリアンズぅぅぅ!」



 こうして、俺たちは──。

 無事に一回戦を突破し、二回戦へと進むことになった。

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