第18話 思ってたよりも変態
「剣に名前をつけると威力が増すぞ。理屈じゃない。気持ちの問題だ」
そんなアドバイスをバロムのおっさんから受けて、俺は前へと進み出る。
名前? 土壇場でそんなこと言われても。
そもそも持ってるの木刀だし。
なんか振ったら光の軌跡が残るけど。
おっさん曰く【マジックアイテム】らしいけど。
俺が昔使ってたのが次元を超えてきたものらしいけど。
名前。名前ねぇ……。
まぁ、今は名前なんかよりも……。
(ごくり……)
俺の目の前2mの位置にいるソー・クヴァック・アニマ。
覆面、腰布、布ブーツだけの男。
そいつは全身に絡みついてたモンスターたちの触手から解かれ、今は名残惜しそうに離れた触手へ向けて指を彷徨わせている。
そして、その指先は短い腰布の中に移動し、もぞもぞと股間をまさぐると中から鞭を取り出した。
おい、どっから出してんだよ!
そしてどうやって収納してたんだよ!
まさか、
鞭を匂ってうっとりしてるし!
っていうか、いや、マジで……?
俺、今からこんなイカれた変態と生死をかけた戦いをしなきゃいけないの……?
「おいおい、なんだよ、あの弱そうなガキは!」
「ビビってんのかぁ~!?」
「俺は『触手ぁ~ズ』に賭けてんだ! 負けろ負けろ負けろ負けろぉ~!」
俺の弱気を見越してか、観客席から野次が飛ぶ。
「るっせぇぇぇ! ソラの悪口言ってんじゃねぇぇぇぇ!」
仲間が俺のために怒ってくれてるってのがちょっと嬉しい。
姿、いまだに「うっ……」と思うようなエイリアン姿だけど。
ちゃんと話すようになってまだ3日だけど。
けど。
おかげで弱気の虫が消え去った。
シュン──!
木刀を振ると、光の帯が尾を引く。
「ぎょぎょぎょ……その手に持ちし硬そうな棒、なかなかの【逸物】とお見受けします。けれど……我が愛しのパロッパちゃん、そしてマイコちゃんの仇──とぉらせてもらいまぁすよぉ!」
ソー・クヴァック・アニマは「パシィ──!」と鞭を打ち付ける。
と、同時にアナウンスが響く。
「大将戦、始めェ!」
歓声が沸く。
空気が圧迫。
息苦しい。
足元の砂はジャリジャリ。
そのジャリジャリ砂を踏みしめる。
慣れ親しんだ剣道のすり足の構えを取る。
制服のローファーの踵が浮く。
木刀を構える。
ブレザーのジャケットの脇が張ってキツい。
脱いでくればよかったかも。
次々と湧いてくる雑念に押しやられ、いつの間にか「即棄権する」という考えは頭の外に押し出されてしまっていた。
「アマツキ殿! 奴の鞭は……」
バロムのおっさんの声。
なにか伝えようとしてるけど、大歓声にかき消される。
(どうせ射程圏外に逃げろとかだろ?)
すかさずバックステップ。
しかし、鞭の攻撃は飛んでこない。
(…………えっ?)
そして俺は、信じられないものを見た。
なんと。
ソー・クヴァック・アニマは、
(な、なにしてんだ……?)
「はぁぁぁぁぁぁ! 落ち着くぅぅぅぅぅ! この圧迫感んんんッ! この圧のかかった皮膚の凹み、骨の軋み、内臓の呻き、すべてがッ! ぎんっもぢいいぃぃぃぃぃぃん!」
叫び終わると同時にソー・クヴァック・アニマが、鞭を引く。
するとソーの体がコマのようにぐるぐると回転しはじめる。
ギュルゥィィィィィィィィィィン!
つま先を中心としたその「巨大コマ」は、そのまま猛烈な勢いでこっちへと迫ってくる。
「でた~! ド変態ソーの
ご親切に観客が技を解説してくれる。
『
技自体もヤバければ、名前もヤバい。
けど、こんなの近づかなければいいだけの話じゃ……?
そう思って一歩下がった俺の鼻先を鞭がかすめる。
ピッ──!
血が吹き出す。
あっぶねっ。
思ってた以上に射程が長い。
しかも、あの鞭には刃のようなものが付いてるらしい。
っていうか。
っていうかさぁ……。
そんな刃のついた鞭を体に巻き付けてたソー・クヴァック・アニマはさぁ……。
もちろん、その体中から血が飛び散ってるわけで……。
「ぎょぎょぎょ~! この体中から血が抜けていく感覚、最っ高ぅぅぅぅぅぅぅ! このまま切り裂いて、斬り裂いて、きりきりさいてぇぇぇぇ! 肉塊、血しぶきぃぃぃ! 私と一つの肉塊となろうじゃあ~りませんかァ~! 硬くて光る棒を持った少年んんんんんんッ!」
やば…………。
変態ってここまでかよ……。
エイリアンよりも、モンスターよりも、こいつの方が怖いわ……。
ダッ──!
とりあえず後ろにダッシュ。
背中を壁にぴったりと付けて構え直す。
これは、バロムのおっさんに授けてもらった作戦。
これで向こうは攻撃しにくくなったはず!
そんな俺に向かって、ソー・クヴァック・アニマの回転コマは勢いを落とすことなく向かってくる。
距離を取ったからか、冷静に相手を観察することができた。
俺の頭の中に、連想ゲームのように次々とワードが浮かんでくる。
コマ。
渦巻き。
回転。
軸。
地軸。
自転。
公転。
引力。
衛星。
恒星。
力の作用。
あれっ?
なにか……。
なにか思いつきそうな気がするんだけど……。
「アマツキくんっ!」
入江の声。
気がつくと、考えに
巨大コマが、迫っていた。
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