第16話 エイリアン vs ローパー

 この闘技場は、さながら「ストリップ劇場」。

 それをすでに俺は悟っていた。

 下卑た観客の言葉が闘技場を埋め尽くしていく。


 殺せ。

 引きちぎれ。

 絞め殺せ。

 ズタズタに引き裂け。


 ストレス発散。

 残虐な試合を見て、己の安全に胸を撫で下ろす。

 試合は非日常。

 客席は日常。

 そんな安全地帯の観客たちから危険地帯の俺たちに向けられる野次の欲望丸出しっぷりは、収まることを知らない。


「試合は賭けの対象にもなっている。アマツキ殿が勝つようなことになれば大荒れになるな」


 バロムのおっさん、それもっと早く聞きたかったぜ。

 知ってたら、大穴の自分たちに賭けてさぁ~。

 大儲け出来るよう、もっと頑張って準備したのに~。


「先鋒、前へ!」

「おぅ、いってくるぜぇ~」


 是野ぜのが試合場の中央へと進み出る。


「バロムのおっさん! なんかアドバイスは!?」


 明るく出ていった是野ぜのだけど、これって殺し合い──だろ?

 ギブアップありとは言え、いざ始まるとなるとさすがに心配になってきた。


是野ぜの殿、絶対捕まらぬことだ! 掴まったら最後! 四方八方から怪力で押さえられ脱出することは不可能! そのまま溶かされながら四肢をもがれてしまう! だから距離を開けて戦え!」


 バロムのおっさんのアドバイスが聞こえてるのか、聞こえてないのか。

 是野ぜのは振り返りもせず、対戦相手のローパーをジッと見つめている。

 ローパー。

 筒みたいな浅黒い胴体。

 蠢く無数の触手。

 巨大な邪悪イソギンチャクみたいなモンスター。

 見るからに不快。

 見るからにヤバイ。

 そして、ゆらゆらと揺れる触手の動きが……どこか卑猥。



「第24回モンスターテイムトーナメントぉ、第1試合先鋒戦──開始ィ!」



 どこからか聞こえるアナウンスと同時に、ローパーの触手が是野ぜのの体を絡め取った。


「あぁ~……なんてことだ……!」


 バロムのおっさんが天を仰ぐ。


是野ぜの、棄権! 棄権しろぉ! 今ならまだ間に合う! 勝負なんかより、俺は……お前に生きていてほしいんだぁ!」


 早く棄権。

 一秒でも早く。

 見た目は怖いけど。

 監視の役目の一環なんだろうけど。

 俺を何度も遊びに誘ってくれてた是野ぜのが。

 無惨に殺される姿なんて……見たくないんだよ!


 触手まみれの覆面テイマー、ソー・クヴァック・アニマが嗤う。


「くぁ~はは~っ! うちのパロッパちゃんは一度捉えた獲物は絶対に逃さぁ~ん! たとえ相手が魔王だろうとも勇者だろうとも、必ず! イかせてみせぇ〜るっ! それがうちの絶頂請負ローパー、パロッパちゃんだぁぁぁぁ!」


 会場の観客たちのボルテージも高まっていく。


「いい〜ぞ! そのまま溶かし殺せぇぇぇ!」

「はぁはぁ……新種のモンスター凌辱……」

「ひゃっは~! モンスターが千切れ死ぬ様子は何度見ても最高だぜぇぇぇ!」

「こ・ろ・せ! こ・ろ・せ!」

「ち・ぎ・れ! ち・ぎ・れ!」


 闘技場が観客の悪意と殺気に包まれていく。

 バロムとロゼッタの顔も青ざめている。


(くそ……! 俺がもっとちゃんと作戦を考えていれば……!)


 と、これから訪れるであろう最悪の事態に頭を抱えた時──。




 ドギバキブシャベビィィィィ──!




 凄まじい音が鳴り響いた。


「………………へ?」


 喘いでいたソー・クヴァック・アニマが真顔になる。

 なぜなら。

 ローパーの体を──。


 是野ぜのの口からまっすぐに伸びた


 


 が、貫いていたからだ。



 ドルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!



 そして、その突起物の外側についている無数の小さい「刃」が高速で振動すると──。



 パァン────!



 と、風船が割れるみたいな音がして、ローパーの体が。


 粉々に。


 砕け散った。


(…………え?)


 あまりに一瞬の出来事。

 俺をはじめ、全員が状況を理解できず静まり返っている。



「し……勝者、イーヴァル・エイリアンズ~~!」



 声をつまらせながら司会の声が響いた。

 会場にどよめきが広がる。

 是野ぜのは振り返ると。


「うしっ! いい運動にはなったかな!」


 と、俺に推定ウインク(目がないから推定)を飛ばながら──。


「この『ブレード』は、卵を産み付けるときにも使えるんだぜ?☆」


 と続けた。


 え、なぜ……それをこっち見て……?

 っていうか……そんなので産み付けられたら……死ぬ、よね……?

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