第37話 制服と射手

 制服。それも我が校の。

 グレーでぷつっとプリーツの立ったミニスカート。

 女子高生特有のぱっつぱつで溢れ出そうな太ももの表面張力をぷちっと際立たせる白のハイソックス。

 清楚としか言いようのない美しい白ブラウスに慎ましく結ばれた赤のリボン。

 その上から羽織られたカチっとしたブルーのジャケットには、もはや懐かしさすら覚える。

 そんな制服。

 そんな制服姿で、4人は食堂に現れた。


「びっくりした……日本に戻ったかと思ったよ」


 思わず立ち上がる俺。

 4人はそれぞれ、恥じらい、見せびらかし、ポーズを決め、しなを作っている。


「あの、その、変……じゃないでしょうか……?」


 黒髪お嬢様の入江が頬をピンク色に染め、袖を思いっきり伸ばして口元と股間をもじもじと隠す。


「変ではないかな。似合ってる……っていうか、元々みんなその制服姿のイメージだから」

「そうですか……」


 きゅっと握られていた入江の手のひらが少しゆるむ。


「つーか、ウチら的にもこっちの方に慣れちゃってるからな! 人間の制服って可愛いし!」

「うむ、手が2本しかないのは便に欠くが貴様と同じ種族になっていると胸が熱くなるぞ」

「きゃ~! やっぱり飛べない方がかわい~☆」


 着崩した金髪デコ出しギャルの是野ぜの

 スカート丈長めの黒髪真ん中分けクール系高身長美女のひじり

 前髪ぱっつんでおさげ、くるぶしソックスのキラキラ系アイドル美少女の田中さん。

 それぞれ馴染んだ着こなしを見せる3人も人間に戻った喜びを口にする。


「っていうかなんで制服? どこから用意したの?」

「私が作ったんだよ~☆」


 田中さんが両手の指で器用に星を作って、その間から覗く。


「え、すごっ。材料とかは?」

「ほら、アイドルって自分たちで衣装作ったりも出来たほうがいいからさ~、裁縫もばっちり鍛えてあるんだよね~」

「材料は?」

「…………」

「え、材料」

「ほら、ソラ! 女の子にそんなこと聞くもんじゃね~だろ!」

「えぇ……? 一体なにから作ってるの……?」


 場の気まずい空気を変えるようにメイドのリンが咳払う。


「こほん、少し拝見していましたが田中様の手芸技術の高さ、そしてスピードは大陸でも一、二を争うレベルかと。きっとそのスキルは今後皆様のお役に立つことでしょう」


 ふむ、たしかに。

 これだけの縫製技術があったら、こっちでアパレルでも作れば大ヒットするんじゃ?

 いや、そんなことする前に俺はさっさと元の世界に帰りたいんだけどさ、もし長居するようになった場合ね。


「あっ、でも人間姿に戻ったってことは、戦力的にはすごく弱体化した感じになるのかな? もう闘技場のときみたいに無双は出来ない感じ?」

「そんなことはないにゃ」


 テーブルの上で香箱座りをしているマオがパタと尻尾をふると、みんなの姿がエイリアンに戻った。


「いつでも切り替え可能にゃ」

「え、でもせっかく服とか作ったのに」


 パタ。尻尾振る。


「あ、元通り」


 目の前には再び制服姿の4人が。


「あのさ~、【Loringkon0ta9銀河】随意一の縫製スキルを持ったミクちゃんをナメないでくれる~? サイズや形状の変化にも柔軟に対応できるって~」


 田中さんは、鼻と口の間を狭めて得意げに言う。

 ミニサイズだとあんまり感じなかったけど、実寸大だとクソ可愛い。

 オーラ出まくってんじゃん。

 こんな間近で直視したの初めてだよ、これがアイドルかヤバいな。

 まぁ、とにかくもうあの裸姿はもうお目にかかれないらしい。

 正体がエイリアンだとわかってはいても、あの裸体の美しさに嘘はないからな。

 それにいつでもエイリアンに戻れるなら、なにが起きても大体は大丈夫ってことか。

 ……あの、渇蠍かつかつみたいなこの世界有数のヤバい奴と出くわさない限り。


「っていうかマオのスイッチ能力すごいな」

「にゃ」


 パタパタパタパタ。

 尻尾を振るごとに4人の姿がチカチカとエイリアン→人間→エイリアンと切り替わっていく。


「あの~、目が回るんだけど……」


 と、言った、瞬間。



「──狙撃。【飛心ソーヤン】を守れにゃ」



 マオの声に反応し、エイリアン姿に戻ったみんなが。

 一斉に。

 動く。


 是野ぜのが飛び。

 リンが影のように這い。

 ひじりがアームを伸ばし。

 入江が腕を伸ばし。



 ぷしゅぅぅぅぅぅぅ──。



 俺の前に集まったみんなが、なにかを掴んでいた。

 そのに目を凝らす。


「……矢?」


 矢。弓矢の矢を4人が掴んでいる。


「え……俺を狙って?」


 飛んできた方向を見る。

 微かに窓が空いている。

 そこから飛んできた? これが?

 ミニチュア姿の田中さんが窓の隙間から飛び出して叫ぶ。


「あ~! もう逃げられてるんだけど~! ムカつく~! 私のアマツキ狙うとか死ねっ! 死んで~!」


 私のアマツキって……と思っていると、ひじりが「ふむ、矢筈やはずに……」と呟く。


 矢筈やはず? ああ、矢じりの反対側。おしりのほうね。

 見ればそこに紙がくくりつけられている。

 みんな片手なりが塞がっているので、俺がそれを取って開く。



『冒険者ギルドへと行き、冒険者登録をせよ。そこで受けた依頼の報酬として昨日言った金額を渡す。ちなみに貴殿らの腕を再確認するために、矢文をアマツキ殿に向けて射たせてもらった。無事であることを祈る。R.V』



 R.V?

 レイ、ヴン?

 レイヴン王……。この国の王様。人を食った解説おじさん。

 あ、の、ジジイ~……!

 趣味が悪すぎるだろ~!

 もし当たってたら死んでるじゃん、これ!

 殺人未遂ですよ、殺人未遂!

 っっったくもう~……! はぁぁぁ~~~~……。


 肺の中の空気を全部吐く。

 息を吸い吸い顔を上げると、俺を見つめるみんなの顔が目に入った。

 指示待ちって感じ。

 ああ、そういや俺がこいつらのリーダーなんだっけ、一応。

 しゃぁない、気分を切り替えるか。


「ま、なんにしろ。決まったな、今日の予定」


 俺たちの今日の予定、それは。


 今から冒険者ギルドに、ゴーだ。

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