第33話 受信
屋上には、リンの言っていた通りいくつかのハーブ菜園があった。
そして館の周囲はぐるりと森に囲まれている。
なので、屋上から見えるのは木々と空……。
それと、ドーム。
ドーム?
違和感しかない。
ファンタジー世界だぞ、ここ?
そこに科学の結集したみたいな天文台チックな半球ドーム。
しかもご丁寧に、地上からは見えないような位置に設置されている。
「どうです、変わってませんか?」
リンはことの重大さがわかってないようなあっけらかんとした顔をしてる。
「……中に入っても?」
「もちろんです!」
リンはドームに近づくと右手の指をセンサーに掲げ、それを赤外線が読み取った。
「おい……? それって……」
「ああ、なんかの魔術の儀式的なものみたいですね。でもおかげでセキュリティーはばっちりです!」
魔術の儀式って……。
それ、完全に指紋センサーじゃん……。
入江と顔を見合わせる。
シュッ──とガラスの扉が横に開く。
リンが平気で中に入っていく。
警戒しつつ中に入ると、ほんのりと蒸し暑かった。
あまり物のない部屋。
横長の木のデスクと木の椅子。
それに図板を引くボード。
あとは引き出し付きの棚がいくつか。
それに花が一輪。
「月見草です」
月見草らしい。
白い花びらが双葉のように咲いている。
こんな感じ。
見た目の近未来感と違って、中身はごく普通のファンタジー世界だ。
ドーム状のガラスを叩いてみる。
コンコンッ。
軽い音。
「これ……強化ガラスですね」
「そんなものがどうしてここに……」
「わかりませんが、これに関しては口外するなと王から言われています。なんでも【おーばーてくのろじー】だとかなんとか」
「オーバーテクノロジー……そのとおりですね」
「じゃ、こんな建築物を作れるような技術は普通にはないってこと?」
「はい、私の知る限り。こんなきれいにガラスを屈折させるだなんてどんな国の職人でも不可能です」
2700年前の勇者【シキベ】の住む館に、オーバーテクノロジーの半球ドーム……。
「なぁ、その【シキベ】って勇者は最後はどうなったんだ? どこで死んだとか」
「死んではいませんよ。消えました」
「消えた……?」
「ええ、伝説では光に包まれて消えたとか。きっとまた別のところで誰かを助けてるのかもしれませんね」
これは……。
つまり、その明らかに日本人っぽい名前の勇者が元の世界に帰ったってことでは?
入江の無機質なメタリックフェイスもそう語っている。
「はぁ……」
あの解説おじさん、これを知ってて俺たちをここに送り込んだってことだろ?
今頃、俺たちが驚いてるのを思い浮かべてニヤニヤしてるんだろうな~。
あ~、ぶっ飛ばしてぇ。
握った拳をトンと壁につく、と。
その置いた手元に描いてあった紋様的なものが光って──。
ゴゴゴゴゴゴ……。
「うおっ!?」
半球のドームが開いていった。
「えぇ!? 今までお掃除しててもこんなことなかったのに!」
「これは……日本人だけに反応するセンサーみたいなものが組み込まれてそうですね」
「わかるのか?」
「はい、一応。こういうのは好きなので」
へぇ。
「じゃあさ、この部屋を手がかりにして──」
帰国する方法を探そう。
そう言おうとした時。
入江が、固まった。
ビリッとした電気が周囲を駆けたような気もする。
「入江? ……うわっ」
肩に触れようとしたら静電気。
電気を帯びたまま微かにピリピリと光る入江は動揺したように口を開いた。
「あの……受信……しました」
「受信?」
「はい……地球……」
固まっていた入江が、ぎこちなくこちらを向いて続ける。
「【
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