第31話 くノ一メイドちゃんは有能

 新居に案内されてきただけ……のハズなのに、情報が氾濫してる。

 露出の激しい「くノ一メイド」。

 その後ろに控える豪邸。

 一体、なにがなんだか……。


 とりあえず、一番女性陣(エイリアン)の刺すような視線が痛いくノ一の「極小布地」な服から対処することに決定。


「服、恥ずかしくないの?」

「は……はずかしくなんか……なんかにゃい……ないでしゅ! こ、これはれっきとした由緒正しいくノ一の正装で……」


 メイドの時は無口で無愛想だった「リン」。

 それが、くノ一「オリン」になるとダメダメ萌えっ娘に……? 


「正装ってさ、誰がそれを正装だって言ってたわけ?」

「スターツ王です!」

「あぁ……」


 察し。

 俺らは顔を見合わせる。

 闘技場の戦いを、まるで現代のカードゲームかのように解説していた自称「日本について知っている男」。

 絶対あいつの間違った知識だ、これ。


 ふぁさ。

 俺はオリンにジャケットをかけてあげる。


「えっ……?」

「正装って、『その場に合わせた服装』ってことでしょ? 今この場にさ、その服装は合ってると思う? 男1人、エイリアンの女の子4人。その格好でいられたら微妙な空気になると思わない?」

「あっ……」

「ね? それでも、ずっとその格好でいる?」

「しゅ、しゅみません! あの、私、これが実質的に初任務でして……あわわ!」


 オリンは、顔を真っ赤にしてジャケットで体を隠そうとする。


「うん、とりあえずその格好もなんだし……中、入ろうか?」

「ひゃい……」


 小柄黒髪ボブカットのオリン。

 ジャケットを羽織ってるせいで、露出された生足が余計引き立つ。


(なんか……絶妙に面倒なことになりそう……)


 そんな予感と共に、俺たちは三階建ての真っ白な館へと足を踏み入れた。




「広~~~い!」


 広い。

 三階建ての白い館。

 玄関も、門も、庭も、池も、何もかもが広い。


(これが俺たちの今日からの新居、だって……?)


 庭には井戸に噴水、厩舎までついてる。

 そんな豪華豪邸を手に入れた俺らはというと……。


 是野ぜのはカベチョロのごとく壁を這い回り、

 ひじりは背中のアームで庭を掘り進めて勝手に地下室を作り、

 田中さんは三階の角部屋を自室に決めてお姫様みたいな飾りつけに勤しんでいた。


「あはは……みんな生き生きしてますね……」


 貴族が食事をするかのような真っ白で天井の高い食堂で、テーブルを挟んで向かい合った入江がはにかむ。


「そりゃみんなエイリアン──異星人だろ? 元の居住環境なんかそれぞれ違うだろうし、これだけ広かったら自分好みの生活環境を整えられるんじゃないか?」


 しっかりとした横長のテーブルに肘をついて答える。


「この調子だと……すぐにボロボロになっちゃいそうですけどね」


 窓の外からは、是野ぜのが壁を這い回る音に、ひじりが土を掘り進める機械音、ごきげんな田中さんの歌声が聞こえてくる。

 俺の頭を、異星人たちによってぐちゃぐちゃに作り変えられた怪しい建物の姿がよぎる。


「大丈夫です!」


 リンの声が響く。……天井から。


「オリン? なにしてるのかな?」


 頭上のシャンデリアから逆さにぶら下がったメイド姿のリンは、すっごいドヤ顔で腕を組んでる。


「くノ一たるもの、常に意表をついたかっこいい登場の仕方をすべきなのです!」


 たしかに意表はついてる。

 かっこいいかはわからないけど。

 にしても、ちゃんとメイドの格好に戻ってくれてよかった。

 もし、あの「極小布地」の格好でぶら下がられてたら、隙間から色んなところがチラってて大惨事だよ。


「あ、うん。で、なにが大丈夫なわけ?」

「ふっ……よくぞ聞いてくれましたっ!」


 リンは、シュタッ──と飛び降りると、どこからか取り出した紅茶を俺たちの前にセットする。


是野ぜのさんの壊した壁は都度補修し、ひじりさんの掘った穴の回りはしっかり補強し、田中さんの部屋はすでに防音仕様に改修済みですっ!」


 言われてみれば、さっきまで聞こえていた騒音が小さくなっている。

 このリンって「くノ一メイド」、もしかしたら間が抜けてるだけですっごく優秀なのかもしれない。

 そもそも「くノ一メイド」がなんなのかも、まだよくわかってないのだが。


「んっ……このお茶美味いな」

「ほんと! 茶葉の香りが立ってますね!」

「お口にあったようでなによりです。こちらは自家栽培のオリジナルのハーブを使用しています」

「へぇ、庭にハーブ園なんてあったっけ?」

「屋上にあるんですよ」


 リンの得意げな顔。

 コロコロと表情が変わる。

 最初に見せていたような無口なイメージはすでにない。

 もしかして、ただシャイなだけだったりするんだろうか。


「屋上もあるんだ、ここ」

「はい、屋上はとても日当たりがいいのでハーブ類をいくつか育てています。それから──」


 リンは、奇妙な言葉を続けた。



もあるんですよ」



 ん?

 

 なんか……このファンタジー世界に微妙に似つかわしくない感じ。

 ちょうど入江も同じことを思ったようで、二人して顔を見合わせる。


「お、気になるなら見に行きますか、屋上?」


 暮れかけた陽の光が背の高い窓から差し込む中、オレンジ色に照らされた入江の横顔がこくりと縦に揺れた。

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