第29話 景品ちゃん授与

「『第28回モンスターテイムトーナメント』優勝者は、クルス・レンジャーズゥゥゥゥゥゥ!」


 闘技場が歓声で揺れる。

 俺たちは、試合場で、その騎士団長クルス──あの王様の隣りにいた褐色の騎士率いるモンスターチームが静かに喜ぶのを見ていた。

 え? なんで試合場にいるのかって?

 だって……。


 だって決勝の相手…………俺らだったんだも~~~~~ん!

 ほら、よく考えてみたら、デュオ率いる「渇蠍かつかつチーム」って俺たちの準決勝の相手だったじゃん?

 で、その準決勝の相手を俺たちが壊滅させたわけじゃん?

 すると、自動的に俺たちが不戦勝で決勝戦に上がっちゃうわけじゃん?

 でもって、王様から直々に大会を盛り上げるために決勝に出てくれって頼まれるわけじゃん?

 日本に帰る手がかりを持ってる相手の頼み事だから無下には出来ないじゃん?

 決勝の相手もクルスで、「怪我させないようにするから」って言ってくるもんで、「ん~、じゃあ形だけ」なんて言って出てみたらさぁ。


 完ッ全にッ、こっちを研究し尽くしたオーダーを組まれて……。



 ◯ サンドゴーレム vs 是野ぜの ●

 ◯ ドロヌーバ vs ひじり ●

 ◯ ハーピー vs 田中さん ●



 三連敗。ち~ん。

 爪と牙頼みのゼノに、カチカチのサンドゴーレム。

 斬り裂き頼みのひじりに、斬っても死なない泥系モンスター、ドロヌーバ。

 空飛ぶ田中さんに、空飛ぶハーピー。

 ズルい。

 こういうのがあるから控室とか誰も入っちゃいけなくて、試合開始までメンバーが伏せられるルールだったのね。

 にしてもズルい。

 だってさ。

 こっちは1回戦、渇蠍かつかつとの戦いで2回も研究されてるわけじゃん?

 でも、こっちは向こうを初見。

 んでもってさ、向こうには108体のモンスターが控えてるらしくて、対戦相手に合わせてどんなオーダーでも組めるんだって。

 うわぁ~、ズルっ!

 これって結局……。

 王国の威光をアピールする大会じゃね~かYO!

 そんなもんに勝てるわけね~YO!


 でも、そこは紳士な俺。

 一応クルスに「おめでとう」って言いに行ったんだ。

 そしたら。

「最初からわかっていた結果なので、別にめでたくもありませんよ」

 だって。

 むっき~!

 な~んか、あいつさぁ~、俺に当たりがキツいんだよなぁ~。

 ま、王の警備っていう職業柄、当然なのかもしれないけどさぁ。


 ああ、それから。

 このトーナメントの優勝賞品が【スターツ王国の領土の一部】だったんだ。

 で、このクルスさんがさぁ……言ったんだ。俺に向かって。


「よかったら私の代理で領を治めませんか? 私は王の側を離れたくないので」


 って。

 ほんっっっと、嫌味なやつ!

 俺は「はいはい」って流しといたけど、ほんとに食い詰めたらマジで押しかけてやるからなコノヤロー!


 ま、でも。

 このトーナメントを通じて、色々なこともわかった。

 たとえば。


『この世界は、人もモンスターも一筋縄じゃいかない』


 変態テイマーのソー・クヴァック・アニマ。

 天才殺し屋、渇蠍かつかつ

 その渇蠍かつかつに一目置かれる無愛想騎士団長クルス。

 そして、掴みどころのないスターツ王。


 俺はてっきり「文明の遅れたファンタジー世界」に迷い込んだと思っていた。

 けど、そこに住む人々は思ってたよりも、はるかにタフでしたたかだった。


 俺を監視してた、今となっては俺の護衛役となっているエイリアンズ。

 無敵と思われてた彼女たちも、相性次第ではモンスターに完封される。

 だから、油断は大敵。

 これからは、もっとこの世界に適応していかないとだな。


 あっ、それから!

 なんと、準優勝した俺たちにも……賞品が、授けられたんだ!




「え? 一軒家?」


 準優勝の景品は、驚くことに【一軒家】だった。


「モンスターテイムトーナメントの準優勝じゃ。なかなか箔のつく経歴なんじゃぞ? これくらいの報奨はあってしかるべきじゃて」


 闘技場内にあるVIP室に戻ってきた俺らに、スターツ王が当たり前のように言ってのける。


「いいのか? 俺たちは、そのうち日本に帰るけど」

「よいよい。帰る前にほら、ロゼッタと子供でも作ってくれれば……」

「お父様!?」


 顔を赤らめて怒るロゼッタ。

 だよな、っていうか爺さん?

 それ、あんたの好きな日本だと普通にセクハラだからな?


「ま、それはそれとして。普通の景品じゃ。遠慮なく受け取ってくれ」

「はぁ、まぁ宿代も浮くし助かる。貰えるんだったら貰っとくか」


 ま、こうしてポンとくれるような家だ。

 どうせそんなにたいした物件じゃないだろ。

 どっかのあばら家とか、たぶんそんな感じ。

 なら、別に気兼ねすることもないか。


「返せってたって返さね~からな!」

「ふむ、極秘研究施設に改造するか」

「私、お城とか欲し~☆」

「これで自炊すればかなり倹約できますね」


 好き好きに喋るエイリアンズを、褐色騎士団長クルスが湿度の高い目で見つめている。


「ほんとに……我が領の代理領主にはなっていただけないので?」


 だからなるわけないだろ。

 どんだけ嫌味なやつなんだよ、こいつは。

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