第14話 マジックアイテム『木刀』

 ワーワーワー!

 観客たちの大歓声が聞こえる。

 ここは闘技場の通路。

 あのデュオと揉めた──というかモロに喧嘩を売った俺たちは、あの後すぐに訪れた係員に連れられ、こうして試合会場へと続く通路で待機していたのだった。


「いきなり試合とかキツいんだけどぉ~」

「え~っと、相手はモンスター4匹にテイマーが1人、だっけ?」

「うむ、そうだ」

「で、先に3勝した方の勝ち、と。となると……」

「よしゃ、ウチ先鋒!」

「ふむ、では次鋒」

「えと……私が、中堅……ですかね?」

「……副将?」

「俺が大将か……」


 【出場順】

 先鋒 是野ぜの

 次鋒 ひじり

 中堅 入江

 副将 田中さん

 大将 俺


 で、いくことになった。

 いくことになったと言われても、それ以外なにもわからない。

 求む、説明。


「ルールの説明をするぞ」


 グッドタイミングでバロムのおっさん。


「モンスターは武器の使用禁止で、相手を殺してもよい。テイマーは武器の使用可能、相手を殺してはならない。ギブアップあり、戦闘不能と判断された際はKO」


 KOって言葉、こっちにもあるんだ。


「……え、おわり?」

「ああ」

「制限時間とかは?」

「ない」


 ないんだ……。


「えと、みんなは武器使えないらしいけど大丈夫そ?」

「ウチはこの爪と牙があるぜ! ちょうど【甲殻こうかく形態モードのままこっち来たからな!」

「ふむ、私のメスは使えない、と……」

「私は、えっと、頑張ります!」

「私、すぐリタイアするからどうでもいい~」


 う~ん、大丈夫じゃなさそ……。


「アマツキ殿はどうする? ここにある武器からも選べるが……」


 通路の壁には色んな武器がかけられてる。

 剣、斧、モーニングスター、メイス、メリケンサック……。


(うわぁ、全部物騒だなぁ)


 剣とかちょっと持ってみたけど重いし。

 そもそも俺、さすがに命をかけてなんて戦わないよ?

 そりゃ、あのデュオは許せないけどさぁ。

 いきなりこんなもん持って殺し合いに勝てとか言われも……。


(ん?)


 目に入った。

 通路の隅に置かれた、薄汚れた木刀。


「これは……?」

「ああ、昔から置いてあるな。さすがに真剣勝負で使えるようなものじゃないから、誰も使わんよ。そんなものよりも、こっちとかどうだ?」


 重たそうな槍を進めてくるバロムを無視し、木刀を手に取る。



 シュゥゥゥン──!



「うおっ!」


 なんか光ってる。

 え、っていうかこれ……。


「しっくりくる。しっくりくるっていうか……これ、俺が剣道の稽古の時に使ってた木刀にそっくりなんだが……」

「ふむ、そういうこともあるかもしれんな」

「あるの?」

「うむ、次元の歪みに正確な規則性はない。なんでも起こりうるのが我々の巻き込まれた、いわば【ワープ】だ」

「ってことは、これは俺の?」

「少なくとも今はそう思っていたほうが都合がよかろう?」


 ヒュンッ──。


 振ると、光が尾を引いて流れる。


「これは……今まで誰も気づかなかったが、まさか【マジックアイテム】だったのか……?」

「古い言い伝えでは、武器が人を選ぶことがあると言います。アマツキさんも、この武器に選ばれたのかもしれませんね」


 ロゼッタが言うと説得力が増す。

 俺の愛用木刀が次元を超えてマジックアイテム?

 上等だ。

 なんにしろ、今は考えてる時間もない。


「よし、これでいく」


 ひとまず準備OK?


「あ、そういえばバロムのおっさんって元【闘技場の英雄】だったんだろ? コツとか教えてくれよ。コツ。なんかコツコツコツ」

「こ、こつ……?」


 そうしてバロムのおっさんに闘技場で戦うコツを教えてもらってるうちに、呼び込みが始まった。



「入れッ! 『イーヴァル・エイリアンズ』!」



 ……っと。

 俺たちのチーム名って『イーヴァル・エイリアンズ』なんだな。

 今、知った。


「私が登録しておきました!」


 真剣な顔のロゼッタ。

 少し……緊張してる?

 イーヴァル、か。

 この街の名前がイーヴァル。

 で、たしかロゼッタの名前が『ロゼッタ・ストーン・イーヴァル』。

 イーヴァル。

 この街の名前。ロゼッタの名前。

 これで負けたら……ロゼッタの名に傷がつくな。

 デュオにあんだけコケにされてたロゼッタ。

 これ以上、傷つけさせたくない。

 よし! 目指すは二回戦でデュオを倒すこと……なんだけど、まぁ……負けるにしてもロゼッタの面目が保てるような闘いを……って……。


「え……?」


 反対側の通路から出てきたモンスターたちを見て、固めかけてた俺の決意はにわかに豆腐になる。

 だってさ……。

 あれってさ……。



「入れッ! 『ぬるぬる触手ぁ~ズ』!」



 ぬるぬる。

 触手ぁ~ズ。

 ぬるぬる……触手ぁ~ズ?

 触手がうねうね。

 そんなモンスターが4匹入ってきた。

 テイマーも腰巻きと覆面しか付けてないヤバい奴だし。

 キモい。

 背中に寒気が走る。

 ほぼほぼ十八禁。


 隣を見ると、青ざめた表入江、是野ぜのひじり、田中さんが固まっている。


「ウォォォォォォォオ!」


 客席のものすごい歓声が俺たちを包む。


 あれ、これって……。

 もしかして、期待されてる?

 試合という名にかこつけた……。



 凌 辱 触 手 シ ョ ー 。



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