第13話 煽っちゃったよ、義兄様を

 兄。

 アニ。

 あにあにあに。

 似ても似つかない兄妹、というのは世の中にどれくらいいるんだろうか。

 仮に一万組いたとして、その一万組の中で、このロゼッタ兄妹の「似てない度」は、間違いなくぶっちぎり1位。

 それくらいに似てない。

 上品で明るくて慎ましやかな雰囲気を纏うロゼッタに対し。

 その「兄」。

 驚天動地世界がひっくり返ったとして。

 もし奇跡が起こった場合。

 俺が「義兄」と呼ぶことになるかもしれない、その男からは。


 下品GEHIN

 強欲GOUYOKU

 下卑てるGEBITERU


 な「3G」のオーラが全身から滲みていた。

 そんな3G義兄が、壁にもたれて気取っている。

 うん、すごく……生理的に無理……。


「大人しく出場辞退していればいいものを……。なぁ~、愚妹ィ~?」

「どうせ……辞退しても、認めてくださらないのでしょう?」

「当~然♡ 敵前逃亡は、このスターツ王国の恥を晒すことになるからなぁ。腐っても王女の貴様にそんなことが許されるわけなかろ~う?」

「……大勢の観衆の前で、私の権威を失墜させることが目的なのですね」

「はぁ? 失墜ぃ? 貴様のような愚妹にまだ失墜するなにかがあるとでも? いいか? この国の全ては、僕が時期国王として君臨するために動き始めている! だから女だてらに出しゃばってくる貴様のような! 愚妹のッ! 邪魔者のッ! 権威などッ! なにもッ! なァ~いのだッ!」


 バァン──!


 俺の未来の義兄が苛ついた様子で壁を叩く。

 一気に喋ったからか息が上がっている。

 胃が悪いのか口臭がきつい。

 その俺の未来の義兄様(口臭◎)の前に、バロム──眼帯のおっさんが進み出た。


「デュオ様。この大会は出場チームの控室に無断で入ることは禁止されております。王子たるデュオ様といえども、ルールは守っていただかねば……」


「あ?(ピキッ──!)」


 デュオ、と呼ばれた男のこめかみに血管が浮かぶ。


「バァ~ロムぅ~~~? お前、まだ生きてたんだなァ? あまりに落ちぶれすぎていて存在に気づかなかったぞォ? かつては【闘技場の英雄】と呼ばれたお前も、まっったくずいぶんと落ちぶれたもんだァ……。で、その薄汚れた黒い鎧はなんだぁ? まだ一端の戦士のつもりか? ハッ、惨めなもんだな……。ん? そういえば、目の調子はどうだ? あの日、無敗の王者だった貴様が試合で目を潰された日。今でもあの時のことはよく覚えてるぞぉ~? 一瞬だったなぁ……? その瞬間から貴様が落・ち・ぶ・れ・る・の・は! ぎぃゃひゃひゃぁぁ! で、そんな貴様が、今は我が愚妹の惟一の味方ときたもんだ? こりゃまた笑いが止まら……」


 デュオの無礼極まりない物言い。

 バロムのおっさんは拳をぷるぷると震わせて屈辱に耐えている。

 そんなおっさんの姿に、俺は思わず口走ってしまった。



「うっざ」



 場の空気が凍る。


「……あ?」


 デュオが俺を睨む。

 が、もう止まらない。


「いや、お前ウザくない? 勝手に入ってきてロゼッタのことを『愚妹』だとか、バロムのおっさんのことを『落ちぶれた』とか。いくら王子だろうと失礼すぎるだろ。こんな奴が王子? いやいや、こんな奴が国を継いだら終わるだろ、この国。そもそも、その格好なに? その外ハネのボブカット、めっちゃセットに時間かけてそうでキツいし。ピッタリ張り付いた黒の服に全身金の刺繍とか、お前は意識高い系のラーメン屋のどんぶりかっつ~の。靴もやたらと尖ってるけど、なに? シャベルかなにか? 穴掘って土の中ででも暮らしてんのか? 大体、お前が王子だろうがなんだろうが俺たちはよその国から来た旅人だから関係ないし。っていうか、お前謝れよ、ロゼッタとバロムのおっさんに謝れよ。失礼なこと言ってすみませんでしたって謝れよ。それが出来ないなら、立入禁止な、この控室から──」


 暗黒微笑~☆



「さっさと出ていけ」



 手でシッシッ。


 こんな屈辱を受けたのは人生で初めてだったのだろう。

 デュオは、怒りでゆでダコのように顔を真っ赤にして震えている。


「こい、こい……こいこいこい……こいつ……! 僕になんて言葉を……!」


「いや、自分が言われて怒るようなことを人にも言うなって話なんだけど? そんなこともわからないのか、お前? あ~、ロゼッタはちゃんと出来てるっていうのにな~! あ、もしかしてロゼッタの出来がいいから、お前ビビってんの? 優秀な妹に王位に就かれるんじゃないか~って。だからやたらと愚妹愚妹って……」


「うぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 南米の怪鳥のような声を上げたデュオは、怒り狂って壁をガンガン蹴りまくるとフゥフゥとより一段と臭くなった息を吐きながら続けた。


「貴様……貴様が我が愚妹のテイマー……。くくくっ……殺す……殺してやる……! ただし、貴様が死ぬのは僕のチームと当たる二回戦でだッ! そこで血祭りに上げてやる……! もし逃げでもしたら、そこの愚妹と老いぼれに代償を払ってもらうとしよう! ちなみに僕の出すパーティーは、【ホブゴブリン】【シャーマンゴブリン】【英雄鬼チャンプ】、そして……【レッドキャップ】だぁ! くくく……! どうだ? 逃げ出したくなっただろう? だが……(うんぬんかんぬん)」 


 ん?


 こいつ、今なんて言った?

 レッドキャップ……?

 レッドキャップって……。


 おいおいおい!


 こいつが、ロゼッタにモンスターをけしかけてた黒幕かよ!

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