第11話 口説いちゃったよ、姫様を

 絶世の美少女ロゼッタとのデートはマ~~~ジで最高!

 したことは、主にウインドウショッピング。

 俺は買い物に興味なんてない。

 一切ない。

 服なんて着れればなんでもいい。

 けど!

 ロゼッタみたいな美少女と共に行動し、喋り、笑い合うという、日本にいたら絶対にすることのなかった体験は、


 とても……


 楽しい………………!


 永遠にこんな時間が続けばいいのに。

 ちょっかいをかけてくるエイリアンズを軽くあしらいつつ、

 さっき間違って告白したみたいになった入江にも何事もなかったみたいに接し、

 背後からめちゃめちゃ眼光鋭く睨みつけてくるバロムの視線を逃れ、

 俺はロゼッタとの至福のひとときを過ごしたのだった。


 けど、楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまうもので。


「ユウさん、あそこで一休みしましょう」


 日も暮れてきて「もうそろそろデートも終わりかな」と思った頃、ロゼッタが天使の笑みで俺に声をかけた。

 王都で人気というニュグュー屋(こっちでいうクレープ屋)で買った『青苺ニュグュー』を大事そうに持ったロゼッタと並び、川沿いの小洒落たベンチに座る。


 あっ、ちなみにお金は全部ロゼッタの奢り。

 男として少し情けないが致し方ない。

 俺はいきなり異世界転移させられてきた普通の一般高校生。

 普段からお小遣いすらない俺に、お姫様になにか奢るなんて甲斐性あるわけないのだ。

 昨日モンスター退治で姫からもらったお金も、うちのエイリアンたちがなんやかんやと買い込んですっからかんになっちまったし。

 だから俺がロゼッタに奢ってもらおうと、これはもうしょうがないことなのだ。


 しかし……。


「お前ら、もっと離れてくれないか?」


 ベンチにぎゅうぎゅうと詰めてくるエイリアンたちに苦言を呈す。


「え~!? だってベンチが狭いのが悪くね!?」

「アマツキくんとロゼッタさんの距離が近すぎるます! なので私が間に入ります!」

「なぁ姫、もっと金をくれないか? この街は欲しいものだらけだ」

「アマツキぃ~、私たちともイチャイチャしようよ~! アイドルの私と誰にも見られない場所でオフを過ごしてるんだよ? こんな絶好の機会二度とないよ?」


 めちゃくちゃだ、こいつら……。

 しかも、正面では黒色鎧の眼帯おじバロムが睨みをきかせてるし。


(ふふ……本当にデートって言っていいのか、これ……?)


 虚無。

 美少女姫とデート。

 俺の人生で二度と起こらないだろうラッキーイベントなはずなのに、不思議と俺の心の中は虚無にみちみちていた。

 そんな虚無僧、俺の耳に通行人の話し声が聞こえてくる。


「なぁ、あれって姫じゃ……?」

「モンスター? 大会用?」

「バロム様もいらっしゃるし、そうに違いない」

「しかしなぁ。今さらあがいたところで……」

「バロム様も昔はすごかったけど、片目をなくされてからはなぁ」

「ま、命を狙われ続けてるオワコン姫には関わらないに限る」

「ああ、万が一味方だと思われたらどんな目に遭うか……くわばらくわばら……」


 そんな血も涙もない言葉を吐くと、通行人たちは厄介事に巻き込まれるのはごめんだとばかりにそそくさと去っていった。


 え? は? なにそれ?

 ひどすぎないか?


「オワコン姫」?

「くわばらくわばら」?


 それが……年端もいかない少女に向ける言葉かよ。


「ちょっとお前ら……!」


 俺は、通行人たちに声をかけようとベンチから立ち上がる。


 ヒシッ。


 と、ロゼッタが俺のズボンの端を掴んで制止した。


「大丈夫です。ああいう風に言われるのは慣れっこですから」


 力ない笑顔。


 嗚呼……ダメだダメだ、ロゼッタ、キミは絶対そんな顔しちゃダメだ。


「慣れちゃダメだろっ!」


 気がついたら叫んでた。

 ロゼッタが驚いたように目を見開く。


「きっとロゼッタには事情があるんだろう。バロムのおっさんにもだ。けど、どんな事情があっても! こんな女の子をあんな風になじっていいはずがない! 絶対にだ!」


 ロゼッタは顔をうつむけると、少し自嘲気味に呟いた。


「……みんなが正いことを言っていて、私が本当にダメな姫だとしたら?」

「そんなことない! わかる!」

「なんで……わかるんですか?」


 止まらない。

 言葉が勝手に口から出てくる。


「わかるから! ずっと空を、星を見てきた俺だ! 知ってるかロゼッタ、惑星や衛星ってな、恒星の光を反射して光るんだ! ロゼッタ、キミは周りを照らす恒星だ! とびっきりの! だから輝いてろ! そんな暗い顔をするな! 世界中に味方が誰もいなくなったとしても、俺が最後まで味方になってやる! だから!」


 ロゼッタが口を押さえて涙ぐむ。


「もうそんな顔、するなよ」

「はい……」


 ロゼッタは涙ながらに答える。

 バロムのおっさんも眉間を押さえている。


「……意外と強引なんですね、アマツキさんは」

「え? あっ……うん」


 フッと肩から力が抜けた瞬間、俺は素に戻った。


「ふふっ……アマツキさんのおかげで元気が出ました! ありがとうございます!」

「あ、ああ……元気が出たならよかった……」


 微妙に気まずい。

 あれ、俺勢いで変なこと言ってなかった?


「ヒュ~、ソラぁ~? 『俺が最後まで味方になってやる』だぁ~?」

「やだ~! アマツキ、入江っちに続いて姫まで口説いてんの~!?」

「ふむ、『そんな顔、もうするなよ』キリッ! ふふふ……よかったぞ、そのセリフ……」

「あ、アマツキくん!? 私も星は詳しいから! 私ともいっぱい語り合おう!?」


 口説いて……?

 口説……?


(あああああああああああぁぁぁぁぁああ!)


 一瞬で顔が真っ赤になる。

 ぷるぷるぷる。

 手が痙攣してくる。

 口説いてんじゃん!

 口説いたみたいになってんじゃん!

 何言ってんの、俺!

 自重しなよ、俺!

 入江の時も恥ずかしかったけど、今度はガチでいいなと思ってるロゼッタ相手だから余計恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃ!

 ダメだ、消えてしまいたいっ!


 と、地面を転がりまわる俺に、ロゼッタが優しく声をかけてくた。


「あの……本当に、最後まで味方になってくださる……んですか?」

「え? も、もちろん!」


 恥ずかしいけど、吐いたツバはちゃんと飲まないと。


「では、改めてお願いしたいことが」

「な、なにかな?」

「もう一箇所だけ、お付き合いいただけますか?」

「そ、それくらいならお安い御用だ!」


 ふぅ、デートの続きか。

 この気まずい空間から離れられるならなんでもいい、さっさと移動だ! レッツゴー!



 …………あれ?



 あれれ…………?



「ロゼッタ? ここって……?」



「はい、闘技場です!☆」



 闘  技  場  ?



 ん? なにそれ?

 普通、デートで闘技場行かないよね?


「アマツキさん! 最後まで私の味方になってくれるんですよね!? 頼りにしてます! 目指せ、優勝です!☆」


 優……勝……?

 う~ん、これ……。

 もしかして俺、ハメられた……?


 こうして、俺は異世界二日目にして命をかけた闘いデスマッチへと挑まされるのだった。だった……。

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