第10話 口説いちゃったよ、グレイ型を

 【翌日 イーヴァル噴水前広場】


「お待たせしました」


 振り向くと、なんとそこには燦々と輝く太陽が。

 いや、それは姫。私服姿のロゼッタ姫だった。

 ましぶい、まぶしすぎる……。

 ロゼッタはベージュ色のふんわりワンピースにカーディガン、シックなローファーを自然体で着こなしている。

 まさに「秋のお嬢様ファッション」のお手本みたいな格好。

 うぉ……最高……。


 ただし。


 エイリアンズさえいなければ、もっとよかったんだけど……。


「チッ、男ウケ狙い丸出しじゃねぇか」

「ふむ、計算され尽くした自己プロデュース能力。勉強になるな」

「げぇ~、マジであの女あざとすぎ~。ムリなんだけど~」

「まぁまぁ……今日は私たちもアマツキくんとデートなんですし」


 そう、俺は今日デート。

 ただし、デートの相手はロゼッタだけじゃなく、この「エイリアンズ」も含めた5人。

 どんなんだよ、それ?

 エイリアンズはロゼッタ憎し(なぜかロゼッタを毛嫌いしてる)で、対抗して俺とデートするって言い張ったみたいだし、正直相手にするだけ無駄。

 ってことで、俺はロゼッタに集中するぜ。

 人生初デート。

 人生初女の子との待ち合わせ!


「大丈夫! 俺も今来たばかりだから!」


 ふふっ、デートっぽい……。

 いい……いいぞ……。


「嘘つけ、1時間前から待ってたっつーの」

「うむ、昨夜もなかなか寝付けずに寝不足なのにも関わらずな」

「がっつきすぎて引く~」

「まぁまぁ……時間を守るのはいいことですよ?」


 はぁ~~~……まぁ~じで、こいつらぁ~……。


「こほんっ」


 ロゼッタの後ろに昨日の眼帯のおっさん、バロムの姿を発見。

 しかも今日は黒い鎧着てる。

 厳つくてこわい。

 変なことしたら殺すオーラ出まくってる。


(保護者付きのデート、かぁ)


 なんだかデートと言うよりも幼稚園の遠足みたい。

 そんな俺の憂鬱も、ロゼッタの一言で吹き飛ぶ。


「アマツキさん、みなさん、本日はよろしくお願います」


 ……!

 かっ……わいい~……!

 ロゼッタがワンピースの両端持って、ちょこんとお辞儀。

 マジでプリンセス。

 はぁ~……異世界……。

 姫、しかもタメ年の美少女にお辞儀してもらえる世界に俺を送ってくれた誰かにマジ感謝……。


 ぱこんっ!


「いでぇ! なにすんだよ、入江!」


 入江に頭を叩かれた。

 入江はメタリックなのでとても痛い。

 デカいパチンコ玉が当たったような感じ。


「なにってアマツキくんがデレデレしてるからです! わかってますか!? ここは私たちの知ってる世界じゃないんですよ!? どこに危険が潜んでるのかわからないんです! だからデレデレなんかしてる暇なんかないんです!」


 めちゃくちゃな理論。

 イラッときたので反論する。


「そりゃあデレデレはしてたよ? だってロゼッタ可愛いじゃん? 清楚じゃん? あんな笑顔向けられてデレらない男はいねぇでしょ。言っとくけど、異世界ここで危険扱いなのはお前らの方だからな? 異世界ここの人にとってはお前がモンスター。今デンジャーのは、お前たちの方なんですぅ~!」


 どやぁ!

 完膚なきまでの論破。

 ロゼッタとの楽しいデートに水を差してくるほうが悪い。


 じわっ……。

 突然、入江の真っ黒で大きな瞳に涙が浮かぶ。


(え、あれ……?)


 戸惑う俺に是野ぜのたちから追い打ちが。


「うわっ、ソラさいて~だな」

「ふむ、言いすぎだ」

「アマツキ、鈍感すぎて引くんだけど~?」


 鈍感ってなんだよ?

 そもそも殴るほうが悪くない?


「アマツキさん、女の子に『危険』とか言っちゃだめですよ」


 ロゼッタの一言で思い出す。


(女の子)


 そうか、女の子だった、こいつら。

 見た目はエイリアン。

 でも、たしかに一昨日までは人間の女子として学校で過ごしてた。

 そうだよな……。

 エイリアンだろうがなんだろうが、女の子は女の子……。

 そう思った俺は、入江に向かい直して頭を下げる。


「ごめんな、入江。キツいこと言っちゃったわ。ほら、お前がからさ」


 メタリックすぎて、エイリアンすぎたから。

 そう言ったつもりだったんだが……。


「ほんとですか!?」


 入江が顔をパァと輝かせる。


「私、そんなにメタリックでした!?」


 え? そこ?

 喜んでるの? メタリックって言われて?

 もしかして「メタリック」ってグレイ型にとっては褒め言葉だったりする?

 わからん……わからんが、とりあえず。

 乗れる波には、乗っておく!


「うん、ほんと! 超メタリック! 最高だぜ、入江のメタリックは! ずっと見てたいくらいだ! ホレボレする! よっ、メタリック! 俺もメタリック肌になりたいくらいだぜ!」


 どやっ! これくらい褒めておけば機嫌が直るだろう。


「うっ……」


 えぇ……? なんでまた泣き出しちゃうの……?


「うわ~、ソラのやつ今度はド直球で口説きかよ~」

「ふむ、下げて上げる。口説きのテクニック上級編だな」

「きゃ~、アマツキってばジゴロ~☆」


 ジゴ……ロ……?

 口説……き……?

 うん、俺、間違えたみたい……。

 なんか……口説いてたことになってたみたい……。

 ウ~ン、ムズカシイネ、エイリアン……。

 俺は一体これからドウスレバ……。


「まぁ、アマツキさんってばモテモテなんですね」


 しかも、一番勘違いされたくない相手──ロゼッタにも誤解されたし。


「ロゼッタ……」


 弁明しようと振り向く。

 あんまり勢い余って振り向いたもんだから、びっくりしたロゼッタが地面につまずいて倒れた。

 それをとっさに支える。

 自然とロゼッタは、俺の胸に飛び込む形となる。

 二の腕の柔らかさ。

 薔薇の匂い。

 ロゼッタ。

 小さい。

 姫。いわゆる、やんごとなきお方。

 そんな彼女が、俺の腕の中に……?

 ロゼッタのか細い肩を掴む手に力が入る。

 その時。

 見えた。

 鬼。

 いや、鬼のような形相をした黒鎧眼帯の男、バロムの姿が。

 ズゴゴゴゴゴ!

 出てる、そんなオーラが。

 その様子を見た街の人達から野次が飛ぶ。


「やべぇ! 鬼のバロムいるぞ!」

「なんでこんなとこに!」

「見るな! 見たら寿命が縮むぞ!」


 散々な言われよう。

 しかし実際、バロムの醸し出すバトルオーラはマジでヤバい。

 圧!

 いや、そのオーラ出せるならさ、なんで昨日馬車が襲われた時に出さなかったん? って感じ。

 嫉妬? 嫉妬なのか?


 ハッ──!


 背後からも殺気。

 エイリアンたちから。

 前門のおっさん、後門のエイリアンズ。

 う~ん、これはダメかもしれんね、俺……。


 ともあれ。

 こんな感じで、俺たちの『デート』は始まったのであった。

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