第6話 姫、襲来

 街に着いて姫たちと別れた後、俺たちは眼帯の老兵から指定された宿屋へと向かった。


 カランコロンカラーン。


「すみません、今日泊まりたいんですけど~」

「はぁ!? こんな気味の悪いモンスターを連れた奴を泊められるわけないだろっ!」


 宿屋の親父の熱い正論ストレート。

 うん、是野ぜのたちの見た目は完全にモンスターだもんな。

 けど、おかしい。

 眼帯爺さんから「ここなら俺らでも泊まれる」って聞いてたんだが……。


「アマツキくん、あれ見せたら?」

「あれって?」

「なにかもらってたでしょ? バロムさんから」

「バロム? ああ、そういえばなにかもらった気が」


 ポケットがさごそ。

 あった。ガサッ。紙切れを掴んで無造作におっさんに渡す。


「ふん、紹介状だぁ!? そんなもんあったところで(紙チラリ)貴様らみたいな……不浄のヤカラ、は……って……んん~? ……は?」


 宿屋の主人は紹介状を取り上げると光に透かしてみたり、目を細めてじぃ~と見たり、何度もパチパチまばたきしながらたっぷり見た後──真っ青になった。


「こ……これは……! お、おおお……王族勅命の……!」


 宿おじ。膝はガクガク、脂汗だらだら。目は虚ろで、口パクパク。このまま一気に髪まで真っ白になりそうな勢い。

 王族勅命ってそこまですごいんだな。


「で、俺たちは泊まれるの?」

「とととと泊まれましゅ! 泊まってくだしゃ~い! お願いします! 何泊でも!  何泊でもしていいでしゅから~~~! 他に行かないで! 見捨てないでぇ~! お願いしましゅぅぅぅ!」


 おっさんの落差にちょっと引いていると是野ぜのひじり、田中さんが、怪しげな笑みを浮かべて前に進み出た。


「テメェさぁ、さっきウチらのことなんて言ってた? 『気味の悪いモンスター』っつってなかったか? え?(口から酸煙プシュ~)」

「うむ、今宵はいい手術オペが出来そうだ……(メス、カチャカチャ)」

「私スイートがいいな~。ね~、さっきあんなに失礼なこと言ったんだからさ~。出来るよね〜? ス・イ・ー・ト♡ だって言ってみればぁ〜? 王族──つまり国を侮辱したのも同然だもんねぇ〜?」


 ヤクザかな?

 こいつら、あまりにもたちが悪すぎる。


「まぁまぁ。泊めてくれるだけでありがたいじゃないか。それにほら、俺たちもとは言え異国からされてきたばかりで、さ」

「む、無料でいくらでもお泊まりくださいぃぃ!」


 ラッキー。

 ちょっと図々しすぎたかなとは思ったものの、俺たちはあの姫からお礼でもらったわずかばかりのお金しかない。

 無駄遣いするわけにはいかないのだ……って……ん?

 なんか入江の様子が……。


 入江。目、きら~ん!☆


「無料!? 今、無料って言いました!?」

「え、ええ……」

「ああ、無料! 無料ですよアマツキくん、無料! この宇宙に無料よりオトクなものはありません! 無料……うふふ……ふ? あ、あれ……? こ、こほん。…………すみません、取り乱しました」


 すんっ。と取り澄ます入江。


「お、おう……」


 入江って『無料』が好きなのか……。

 そんな新たな『気付き』を得た俺らは、宿屋の一番いい部屋に通され、茶菓子的なものをたくさん持ってこさせたりして、異世界のお菓子の品評会にも熱が入りつつ、みんながエイリアン姿なこともあって俺も「女子と同室」って意識も特になく過ごし、気がついたらすっかりと日が落ちていた。


「う~ん」


 めちゃめちゃ座り心地のいいソファーで背伸びする。


(しっかしここ……王族関係者推薦なだけあって部屋グレードは高いなぁ)


 広いし快適。

 調度品も上等な感じ。

 俺が唯一泊まったことのあるアパホテルとは何もかもが違う。

 キングサイズのベッドの上で楽しそうに話すエイリアンズの声が聞こえてくる。

「あの姫が気に食わない(是野ぜのひじり、田中さん談)」とか。

「化粧品どうしよう」とか。

「寝るときの並び順どうしよう」だのを嬉々として話し合っていた。

 修学旅行気分?

 まぁ異世界だし、あんまり先のこと考えすぎても疲れすぎるわけで。

 だから、こういう時間も必要なんだろう。


 ぐぅ~。


 そう思ったら腹の音。


「あ~、ご飯でも食いに……って、俺たちあんま金ないからな……」

「メシっ!? 肉……!(涎ボトッ、床ジュゥゥゥ!)」

「栄養吸収率のいいホエイパウダーのようなものがあればいいのだが(手に持った機器で分娩台みたいなのを作ってる。キュイーーーン!)」

「で、でも無料ですよ……? 無料……(オロオロ)」

「夜だし、お金とか盗んだらいいんじゃない?(あっけらかん)」


 こいつら、わりとモラルとかないよな。

 まぁエイリアンだからなのか?

「夜だしお金とか盗む」って理屈もよくわからんし。


 こんっ。


 乾いた音が鳴る。


「ん?」


 こんっ。


 あ、また。


「ソラ……こっちだ」


 顔に目がないくせに気配察知能力は高い是野ぜのが、窓際で口に当てる。


「ふむ、敵襲か?」

「でも敵って誰ですかね?」

「私たちをここに飛ばしたやつ?」

「ってことはプレデターの仲間?」

「わからんが、可能性はある」

「ってことは……」

「ああ、捕まえよう。そして情報を引き出すんだ。元の世界に帰るための」

「よし。じゃあ……」


 ごくり。息を飲む。

 みなが身構える。

 次の瞬間、三度小石が窓に当たった。


 こん……「今だ!」


 バッ──!


「きゃっ!」


 窓のすぐ外にいた人影を是野ぜのの手が乱暴に掴む。

 が、そこにいたのは──。


「ひ、姫……!?」


 ロゼッタ姫。

 ほおっかむりをしたロゼッタ姫が、窓の外にいた。


「えへへ、来ちゃいました☆」

「来ちゃいましたって、ここ二階なんだが……」


 なんて戸惑うふりをしてた俺。

 だけど、心の中では思ってたよね。


(うお、かわい……! こんなダサいほおっかむりしててもくっそ可愛いじゃねぇか……)


 って。

 けど。背後から聞こえてくる「チッ!」っていう是野ぜのたちの舌打ちに肝が冷える。

 ほら、こいつらロゼッタのこと嫌いだから。

 え~っと、でも……。


「どうしてこんなところに?」

「はい、どうしてもお会いしたくて!」


 おいおい?

 お会いしたくて?

 これって……。

 これってぇ~~~!?

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