第5話 魔王があいつ

「魔王? ここには魔王がいるのか?」

「え、常識だと思いますが……?」


 ロゼッタは、きょとんとした顔で答える。


 さて、姫を助けた俺たちエイリアンパーティー。

 「王都まで帰る途中」だというロゼッタたちの馬車に同乗させてもらっていた。

 なんとなくリーダーっぽい立場と勘違いされた俺は、姫の隣に座ることに。

 たまにロゼッタの肘が触れたりする。

 違うんだ、不可能力なんだ。

 そして、いい匂いするんだ。

 やんごとなき匂いがするんだ。

 違うんだ、わざと嗅いでるわけじゃないんだ。

 不可抗力なんだ。

 ああ~、でもこれが姫……これがロゼッタちゃんの……。


「げほんっ!」


 是野ぜののデカい咳払い。

 瞬時に俺は俺本来の紳士の心を取り戻す。

 ふぅ、危ないところだったぜ。


「しかし、魔王に勇者……か。まるでファンタジー世界だ」

「ファンタジー?」


 俺のなんとなしに言った言葉に、ロゼッタが華奢な首をかしげる。


「あの、その、俺たちの地元にはさ! 『ファンタジー小説』ってのがあって、それに『魔王』ってのが出てきて……。ほら、俺たちの田舎には『魔王』なんていなかったからさ。ほんとに『魔王』がいるだなんて、まるで 『ファンタジー小説』みたいだなぁって……ハハッ」


 嘘は言ってない。

 日本にも田舎はあるし、うん。


「おう、ソラはたまに読んでたもんな、ファンタジー小説」

「そうそう、やっぱ読みやすいし面白いからね……って、なんで俺がファンタジー小説読んでることを知ってるんだ?」

「あ? そりゃ知ってるに決まってんだろ。ソラの行動、発言、出したゴミまですべてがアーカイブされてんだから」

「……は?」


 すべ、て……が?

 アーカイ、ブ……?

 え、されてるの? アーカイブ。

 俺のあんなものや、こんなことまで……?

 ああ……。

 つまり……。

『観測されてた』って、そういう……?


「それにしても、アマツキさんはまるで【勇者】のような方ですね」


 ロゼッタのその言葉で、ボロボロと崩壊していってた精神世界から、かろうじて引き戻される。


「勇者……?」


 勇者。

 勇者か。

 勇者……コスパ、よさそうだなぁ……。

 あれでしょ? 生きてくうえで特典とか色々あるんでしょ?

「ささ、勇者様こちらを持っていてください」って色んな物もらったりさ。

 う~ん……意外とありかもしれんな、勇者……。

 しかし、俺は周りを見回して気づいてしまう。


 馬車ぎゅうぎゅう詰めで揺られているエイリアンたち。

 銀色テカテカメカリックな入江グレイ。

 酸汁ボタボタ是野ぜのゼノモーフ。

 刃物マンひじりドクター。

 ミニチュアロリドル田中さん。


 ダ、ダメだ……。

 こんなキワモノばっか引き連れた勇者なんていねぇ……。

 アイ・アム・ノット・勇者……(血涙)。


「ふっ……姫、俺には勇者なんて身分は分不相応すぎるよ」


 せめてカッコはつけておこう。


「そう、ですか……。アマツキさんたちほどの強さでしたら十分に【勇者】を狙えると思うんですが……」


 狙うもんなのか、勇者って?

 この世界の勇者像がよくわからない。


「アマツキさんのご職業は、え~っと……エイ……ドリアン?」

「エイリアンだ。エイリアンテイマー」


 エイドリアンはボクサーが叫ぶやつ。

 間違えるにしても、よくそこ引き当ててきたな。


「そうそう! 【エイリアンテイマー】でしたね! テイマー……。うん、テイマーですか……。テイマー……」


 え、なになに? テイマーだとなにかまずかった?

 若干不穏な感じ。

 なので風のごとく話題を変える。


「え~っと、エイリアンってのはさ、モンスターとよく似てるんだけどちょっと違うんだ。どっちかというと亜人? ほら、エルフとか、ドワーフとか。そんな感じの。俺たちの地方の特殊な亜人種なんだよ」


 大丈夫だろうか、この説明で。

 そっとエイリアンたちの様子を窺う。

 是野ぜのたちが「ぶぅ」と頬を膨らませてる。

 すまん。

 とりあえずここは「亜人種」ってことで。

 ほら、もう言っちゃったし。

 っていうか、この世界の人にエイリアンの説明とか出来ねぇよ。


「亜人種……ですか。たしか『ニホン』というところから来られたんですよね?」

「ああ、アイ・アム・ジャパニーズだ。不思議の国なので『エイリアン』とか『付喪神』とか『もったいないおばけ』とか色々いるんだよ」

「はぁ……おばけ、ですか……」

「そう、おばけ。『幽霊』とか『地縛霊』とか『トイレの花子さん』とか『トイレの神様』とか数え切れないほどいるんだ」

「なんだか大変そうな国ですね」

「そんな国から謎の転移をしてしまってね。だから俺たち、この国のことを何も知らないんだ」


 お、上手く話を繋げられた感!

 やるじゃん、俺。冴えてる~。


「あら、そうなんですか? ならちょうどよかったですね。もうすぐ私の住むイーヴァルに着きますので、よければご案内させていただきます」


 マジで?

 と、一瞬テンション上がったのもつかの間。


「姫!」


 眼帯の老兵がロゼッタを諌めた。

 しかし、ロゼッタが「爺?」と爺をじぃ~と見つめると……。


「ううっ……わかりました……! そうですね、彼らは命の恩人ですからね……」


 ロゼッタの眼力にタジタジになった眼帯爺は、渋々話を飲む模様。


「ただし! 彼らの滞在の手筈は私が整えてます。姫は予定が詰まっておりますので」

「ぶぅ」

「ふくされても無駄ですぞ」

「はぁ~い。ってことでアマツキさん?(くるっ)」


 くるりとロゼッタが振り向く。

 狭い車中。

 間違ったらキスしちゃうくらいの距離。

 ロゼッタの甘い吐息が顔にかかる。


「そういうことで、ね☆」


 ロゼッタはどんな星よりも明るく瞬くウインクを飛ばした。

 あまりにも強すぎる美少女オーラ。

 それを目の前数センチで食らったわけで。

 馬車が揺れて、膝が少し触れる。

 パチっと脳が煌めいた気がして、一瞬記憶が飛ぶ。

 動揺した俺は、マッハで話題を変えることにした。


「ち、ちなみにその魔王ってのはどんなやつなんだ?」

「はい、身長はおよそ2.5メートル」


 ふむ。


「甲殻類のような外観で、顎部分には大きな牙と触手状の口が広がっています」


 へぇ、触手状の口ねぇ。


「頭にはヘルメット。その中からはドレッドの長い縄状の触覚が生えています」


 ふ~ん、ドレッド。

 ボブ・マーリーみたいな?


「体は軽装甲に覆われており、透明になることも可能です」


 透明か~。

 なぜか明確にイメージできるな~。

 不思議と頭にその個体像が浮かんでくる。


「もしかして、それって体の色が緑か鉛色だったりしない?」

「はい、普段は緑で戦闘時には鉛色になります」

「へぇ~……。あ、他には血の色も緑だったりしない? ヘルメットで暗闇も見える(赤外線)とか。それから種族の流儀で素手の相手には絶対素手で戦うとか。あと決闘に負けたら自爆するとか」


「すごい! なんで知ってるんですか!?」


 ロゼッタが顔を輝かせるも、俺の気持ちは上がらなかった。

 だって、それって。

 それってさぁ……。



 プレデターじゃん。



 あの映画の。



 いや、待て決めつけるのは早い。

 万が一、億が一、違う可能性もあるから一応聞いておこう。


「ちなみに……その魔王の名前は?(ちょっと声裏返り)」

「名前は魔王プレド。口にするのも憚られる不吉な名前です……」


 ふ~ん、プレド。

 プレド……。

 プレデター。

 プレデターじゃん……。


 俺とエイリアンズは、目と目で「プレデターじゃん」って言い合ってた。

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