第4話 爆誕「エイリアンテイマー」

 キンキンキン──!


 次第に大きくなっていく金属音に向かって走っていくと、なだらかな丘を超えた先に街道が見えた。


(馬車が……に襲撃を受けてる!?)


 モンスター。

 ゴブリン、狼、剣を持ったスケルトンが馬車を包囲し、襲いかかっている。


「ハッ、モンスター! なるほど、そういう世界か!」

「あ~、是野ぜのっち〜、勝手に突っ込んじゃ……」


 空跳ぶ低身長型エイリアン田中さんの制止も聞かず、ゼノモーフ型エイリアン「是野茂初布ぜのもうふ」は街道へと飛び出した。



 ズゥゥゥン──……!



 是野ぜのの着地した足元にひびが入る。

 ぬめぬめと、てらてらと、気味の悪~い液体を全身に纏った後頭部長めな凶悪モンスター風エイリアン「是野ぜの」が、ぷしゅ~と(多分)酸の息を吐く。


「ひぃ……! バ、バケモノ……!」


 命運尽きたとばかりに青ざめる馬車の人たち。

 でしょうね……。

 どこからどう見てもモンスターだもんね……。


「ぐるるるる……」


 怪物じみた唸り声を上げる是野ぜの

 口からはぼたぼた垂れる酸汁。

 鋭利な爪や牙はカチカチ。

 目という器官のないエイリアンが前かがみで周囲を窺う。

 マジで不気味。

 そんな是野ぜのに、モンスターたちも馬車への攻撃の手を止めて警戒している。

 ややこしい状況だけど、とりあえず助けられては……いる?  模様。

 あとは、俺が馬車までたどり着いて事情を説明しなきゃだな。

 この中では唯一人間の姿をしてる俺が。

 けど、俺の足の速さじゃまだかかりそう。

 つーか是野ぜの、足早すぎ。


「ゼノっち~、怖がらせてるって~!」


 空飛ぶミニチュア田中さんが、上空から是野ぜのに苦言を呈す。


「ひぃ~! 今度はピクシー!? もうだめだぁ~!」

「ちょっと! だれがピクシーよ! 私は【Loringkon0ta9銀河】から来たミクちゃんなんですけど〜!?」


 ロリコンっぽい名前の銀河から来たらしい田中さんが、ムッとした表情で反論する。


「う、うわああああああああ!」


 馬車の護衛の一人が、その田中さんめがけて弓をつがえた──直後。


 シュシュシュンッ──!


「……は?」


 バラバラバラバラ……。


 弓矢が一瞬のうちに切り刻まれ、地面に落ちる。

 護衛が驚愕の表情で振り向く。

 その視線の先には──。


「ふむ、我らは互いに守護し合う【協定】があるのでな。……はたして、この地でまだ協定に効果があるのかは疑問だが」


 ドクター型エイリアン、聖麗ひじりれいが立っていた。

 その手には異様に鋭利なメスが握られている。


「わ……わわっ……なんだこいつら……! なんでこんな恐ろしいモンスターどもが……!」


「くくく……どうだ? 我が愛刀【KUREN556】の切れ味は?」


 ひ、ひじり

 なに誤解されそうなセリフ言っちゃってんの?

 完全に悪役のセリフでしょ、それ?

 しかも愛用メスの名前、錆止めスプレーっぽい。


「ロゼッタ様、どうか中に! この不肖バロム、命に変えてもお守りいたします!」


 太い声。

 馬車の中から出てきた眼帯をつけた髭面の老兵が剣を構える。

 その剣の先には──是野ぜのひじり

 おいおい……さっきまで「馬車 vs モンスター」だった構図が、いまでは「エイリアン vs 馬車&モンスター」になってるじゃねぇか。

 そこで俺は思い出した。


「あれ? そういえば、入江は?」

「ぜぇ……ぜぇ……」


 振り返ると、銀色メタリックなグレイ型エイリアン入江が、脇腹を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。


「入江、運動能力はそこまでなのな……」

「運動……なんて……ゼイゼイ……私たちの科学力からしたら無駄以外のなにものでもないですから……はぁはぁ……」

「あ~、はいはい、わかったわかった」


 俺は膝をついて背中を差し出す。


「え?」

「おんぶする。そっちの方が早い」

「お、おん……ぶ?」

「いいから早く。あっちが手遅れになる前に」

「えっと……それじゃ」

「よし、行くぞ」

「きゃっ……!」


 ぐっと引き上げて入江の小さい足を担ぐ。

 感触は金属。冷たい。

 あっ、でも軽い。

 重金属じゃなくて軽金属?

 まぁ、なんでもいい。

 子泣きじじいサイズの入江を背負い、俺はズンズンと進んでいく。


「ちょ……! あんっ……あの、アマツキくん……その……手……手がっ……! んっ……!」

「なに!? もっと大きい声で言って!」

「あっ……うんっ……! いや、あ、なんでも……あっ……!」


 もじもじと俺の背中で入江が身をよじる。

 う~ん、じっとしてろ!(ぎゅっ!)

 今はなにより馬車にたどり着くのが先決。

 俺は入江を落とさないよう、手に力を入れて先を急ぐ。


「んんんん~……っ!」

「揺れるけど我慢してくれ!」


 俺はいっそう強く入江の足を押さえて走った。



「ぐるるぅ……がうっ!」


 しびれを切らしたモンスターたちが、是野ぜのたちに飛びかかるが──。


 ズサズサ、シュバババッ──!


 瞬殺。

 是野ぜのが鋭い爪を振り回すたびに、ひじりがメスを振るうたびに、モンスターの肉体は切断されていった。

 そして、文字通り「あっ」という間にモンスターたちは壊滅した。

 

「なんという恐るべき強さ……! ……ハッ! まさかこのモンスター……我々を助け……た?」


 おぉ~、眼帯の老兵がやっと気づいてくれたっぽい。

 よし、ここは俺が説明しないとだな!

 唯一人間の姿をした俺が!


「え~っと! それは俺の方から説明……」


 と、その時。

 馬車の中から、1人の可憐な少女が姿を現した。


「バロム? 外では一体……?」


 美~~~!

 美ッ! 美ッッ! 圧倒的、美ッ 少ッ 女ッ !

 美少女というか、やんごとなさがハンパない。

 おそらく。たぶん。この子は──。


「姫! まだ危険です、出てこられては……」


 そう、姫。

 てか姫って言っちゃってるし、眼帯のおっさん。

 と思った瞬間、生き残っていたモンスターが、美少女──姫を背後から狙っているのに気がついた。

 とっさに体が動いた。


「入江! すまんっ!」

「え? えっ? え~っ!?」


 投げていた。

 入江を。

 魔物に向かってぴゅ~っと飛んでいったメタリック入江は完璧な放物線を描いて襲いかかろうとしていた狼の鼻っ面にゴチン!  無事撃退!


「……ったぁ~い!」

「わりぃ! つい!」

「つい、じゃないです!」

 頭を押さえる入江に謝ってると、


「あ、あなたたちは……?」


 美少女姫が馬車から降りてきた。


「安心してください! 俺たちは味方です!」


 そのあとに、自然と言葉が続いた。



「お、俺はテイマー……! そう! 【エイリアンテイマー】なんです!」



 エイリアンテイマー。

 思ってなかったんだ。

 まさかこの言葉が、

 俺とエイリアンたちが【冒険者】として世界を駆け巡ることになる、

 すべての


 きっかけ


 だっただなんて。

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