第3話


『ようこそ、中央区東京へ


 100年ほど前に日本国中を襲ったウイルス感染は、中央区を、そして日本国中を混乱の渦に巻き込みました。

 そのせいで、多くの変化がありました。日本の鎖国、区間の移動制限……など、あげればキリがありません。


 しかし、その危機はもう過ぎ去りました。我々は、以前のあり方に、さらにその先へと変わらなければなりません。


 日本国の都市、中央区は、今まさに、変わろうとしています。


 昨今、特に注力しようとしているのは、貧富の差──所得階級制度撤廃を進める動きです。

 大昔に実在していたという、平等な世界へ。

 それが、今まさに、この区の目指すべき目標となっています。


 しかしこの動きに対して、現状維持を求める声が多いことも事実です。この声はランク1と言われている富裕層だけにとどまらず、最底辺のランク5の方々からも上がっているようです。

 近づいている区長選挙は、この議題を中心に進められるだろうと推測され──』



 未来はそこまで読んで、端末の電源を落とした。

 ビジネスホテルに着くまでに、中央区関連の記事を読もうとネットサーフィンをしていたが、どこも似たような文章が連なっていた。


「所得階級制度ねぇ……」


 北区出身の未来にとって、あまり馴染みない言葉だ。


 言葉だけは立派に聞こえるが、要は金持ちと貧乏に区別をしているだけの制度だと、学校の授業で習った気がする。自分が中央区に住むことなんてないと思っていたため、この制度についての知識はそのくらいだ。


 それに今回は、仕事で来ているのだ。東京や中央区の歴史を知ったところで記事にするわけでもない。


 未来はこの話を頭の中から追い出し、明日行う取材の準備をすることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る