第36話  やっと見つけた





回想〜




 昔の話をしよう、と言ってもこれはボクの前世の話だ。



 ボクの前世の名前は『邇弍芸ニニギ 乙葉オトハ』、普通の高校生だ。



 家庭は最悪、両親がどちらも毒親でボクのやる事にいちいち干渉してやりたい事など何一つさせて貰えなかった。



 家庭でも、学校でも、居場所の無かったボクはネットの世界に逃げ込み、【混沌の夢】というネットミームに出会った。



 それからボクは【混沌の夢】を追いかけ続け、リアルイベントにも何回か参加したら同じ志を胸に持つ同志にも出会えて本当に嬉しかった。



 人生で初めて生きている実感が持てたボクはこのミームを絶やさないようにと、将来の方針を固めていく。



 しかし毒親共は将来のことにまで口出しして、従わないなら家から追い出すとまで言いやがる。言う通りにした結果、全て失敗に終わり毒親共の計画は水泡に消えた。



 それから数日後に何を思ったのか「何かやりたいことある?」と聞いて来るのだ。



 今まで散々決めつけておいて、やりたかった事全部否定した癖に「今更何言ってるんだ」と頭の中で制御出来ない感情が芽生え始めた。



 完全にキレたボクは母親を殴り飛ばし、殴られて蹲る母親を何度も踏みつけて泣くまで蹴り飛ばす。



 帰ってきた父親は横倒しになって泣き噦る母親を見て激怒するが、タコ殴りにして母親と同じ場所に放り投げる。



 殴り続けた手の甲が傷だらけになって、痛みが長く続いたのを今でも覚えている。



 毒親に干渉されなくなったボクは今度こそ【混沌の夢】を次の世代に繋げる為の手段を探そうとした。



 だがもう遅かった、【混沌の夢】は終わり夢の跡だけが残ってミームは衰退してしまった。



 同志たちもそれぞれ就職や結婚でそれぞれ家庭を持ち始め、再び集うことは無かった。



 ボクだけが、砂だらけのテクスチャに取り残され立ち尽くしてしまっていた。



 何もかも失い、燃え尽きたボクは眠るように身を投げた。



 もし、来世があるのなら...


 

 『今度は自由に生きたい』



そう願いながら。




回想終了〜




 リーチェの一世一代の告白とも取れる叫びが会場に響き渡り、誰もが彼女に目を奪われる。



「リーチェ...」



 遠くから聞いていたナターシャも気がつけば涙を流していた。



 ナターシャは以前リーチェから、前世の話も含めて出会うまでの過去全てを聞いていた為、彼女はそれがリーチェ自身の後悔から来る魂の叫びだと理解したからである。








「人の人生を食い物にしようとするお前達みたいなヤツらに...。

彼女の心を否定されて堪るかーーーー!!!」








 リーチェの言葉に、怯えていたファンの人々は次から次へと立ち上がる。



⦅リーチェ様...これは!⦆



 まるで彼女に鼓舞され、覚悟を決めたかのように。



 それを見ていたアデルは、嬉しさで堪らず涙が溢れ出ていた。








 やっと見つけた!

 私の心を肯定してくれる人!







 もう追い詰められて折れ掛けた筈の心も跳ね上がるように鼓動し、動かなくなった筈の体も動き、立ち上がって大きく息を吸い、自然と言葉が心の底から出始める。








「リーチェーーー!!!

アタシも君が好きだーーー!!!

結婚してくれーーーーーーーーーーー!!!」










 思わず出てしまった言葉に、思わず恥ずかしくなって顔が真っ赤に茹で上がる。



 え?!何がどうしてそうなったんだ?



⦅リーチェ様、さてはタラシですね?⦆



 一体何の話?!



 アデルからの盛大な告白返しに動揺して、興奮していた筈の心が正気に戻ってしまう。



 しかし彼女とは対照的に、ファンの人々達が大きく盛り上がってしまっていた。数々の声が上がり、先程の恐怖が嘘のように吹き飛んでいたのである。



 何これ?何この大熱狂!?【混沌の夢】でもこんなことには...。



⦅貴方がやったのですよ⦆



 え?どういうこと?



⦅貴方の声が、ファンの方達の心を動かしたんです⦆



 マジでか... でも覚えてる、この感覚は、この熱量は、ボクがかつて追いかけていた【混沌の夢】そのものだ。でも大丈夫、ボクにはもう【混沌の夢】が無くたって自分の力で生きていける!



⦅リーチェ様...!⦆



 だって今のボクは、自由なんだから!!!



 リーチェの訴えとアデルの告白がファンの心を焚き付け、ライブコンサート以上の熱量を生み出し盛り上がっていく。最早ユリウスの騎士団達でさえ止められぬ大きな畝りとなって押し寄せようとしていた。



「馬鹿な...この俺様の申し出を断った挙句、別の奴に...しかも同性の相手に公衆の面前でプロポーズだと?!ふざけるなーーーーー!!!」



 遂に堪忍袋の尾が切れたユリウスは怒りに任せて叫び出す。



「何者だ貴様は...こんな民の煽動の仕方、王族でも無ければ到底不可能だ!」



「クソ王子...いや、ユリウス・ビヨンド・ミッツェガルド!ボクの名に...リーチェという少女の名前を何処かで聞いた事はあるか?!」



「...まさか!父上から逃げた妾の子か?!」



 脳に電流が走ったかのように記憶からその名を引っ張りだした。

そう、ミッツェガルド王国の王宮を一時期騒がせた齢5歳の脱走犯、リーチェという娼婦の娘の名前を。



「なるほど...よりにもよって俺様と血を分けた妹が立ちはだかって来ようとは、同じ王族の血が流れているのならこの無自覚なカリスマ性にも納得がいく!」



「ボクをお前達のような外道と一緒にするな!」



 リーチェの存在と才能を危険視したユリウス、ユリウスの所業に怒りが頂点に達したリーチェ、二人が剣を構え向かい合う。



「私も戦います!」



「ナターシャ?!」



 騒ぎの中からナターシャが人々を掻き分け隣に立ち、【アダマスの大鎌】を構えてリーチェと共に臨戦体制を取る。



「戦う時も、死ぬ時も、夫婦である私達は一緒でしょ?さっきの告白に関しては後でお話ししたいですけど」



「あ、あはは...」



 痛いところを突かれてバツが悪そうにしてしまう。



「おのれ【勇者教】の聖女ナターシャ、そして冒険者リーチェ...いや、

『リーチェ・ビヨンド・ミッツェガルド』!!

貴様は危険過ぎる、絶対に生きて帰すな!!」



「ボクをその名で呼ぶなーーー!!!

クソ王子ーーーー!!!」



 騎士団達を嗾け、それに応じた騎士達は武器を構えて前に出ようとする。全面対決になるかと思ったその時、会場に謎の声が響き渡る。






「良い発破だ、気に入った!」






⦅報告、ステータスを更新します。

お読み頂き、ありがとうございます⦆


名前:リーチェ

年齢:15歳

性別:女性

前世の名:邇弍芸ニニギ 乙葉オトハ

職業:冒険者

服装:春夏秋冬のコーデ

称号:【妖精騎士】

冒険者階位:アルティメットクラス

武器:【妖刀村雨】

加護:【アイとの交信】

   【天照大神の寵愛】

   【妖精騎士の証・風纏い】



名前:ナターシャ

年齢:22歳

性別:女性

職業:冒険者・暗殺者・【勇者教】の聖女

服装:聖女の修道服

資格:錬金術師一級・冒険調理師一級

称号:【導きの聖女】

隠れ称号:【麗しき爆乳聖女】

冒険者階位:アルティメットクラス

武器:【アダマスの大鎌】

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