第6話 やってきましたダンジョンに。みんな頑張れー

 さて、再ダンジョン一発目の敵は、みなさんおなじみゴブリンくんだった。ニ十匹くらいワラワラと、団体でのお出迎えだ。

「お。さっそくお出ましですよ、お二人さん。」

「見ればわかります。ここはボク達が引き受けますから、テスさんは下がって…ますね、すでに。」

 言われるまでもなく、私は安全な場所へと避難していた。私のやる気のなさをなめてもらっては困る。

「じゃあ、いくよ姉さん。準備はいい?」

「もちろん。」

 エレナさんが、剣を構える。

 今までなんか、ちょっと抜けてる明るいお姉さんって感じの彼女だったが、さすがにキリッとした面持ちになっている。

 まずミレイちゃんが、杖を高く掲げた。

「土蜘蛛死蜘蛛集いて踊れ…『レヴィザエド』!」

 状態異常の魔法が、ニ十匹全員にかかった。接地している箇所(ようは足元)に、麻痺を引き起こす魔法だ。強力な術じゃないが、詠唱時間と消費魔力は少なく済む。ニ十匹相手に同時掛けするには、この呪文が適切と判断したのだろう。

「しっ!」

 呼気とともに、エレナさんの足が地を蹴った。

 疾風。

 血飛沫が吹きあがる。

 一瞬だった。

 彼女が駆け抜けた後には、ゴブリンのむくろが転がっていた。怪物達はうめき声一つ上げず、首を切り落とされていた。

「おー。」

 ぱちぱちと拍手する。

 どうやら、二人の実力は本物のようだ。

 しかも、ゴブリン相手でも、余計な手傷を負わないように戦う慎重さ。仲間としては頼もしいことこの上ない。

 ちなみに冒険者は、ナイトとウィザードの二タイプに大別される。

 そしてどちらのタイプでも、火・水・風・土の精霊と契約しなくてはならない。その精霊の種類によって、能力や使える呪文が変わってくる。

 エレナさんは、素早さが身上のシルフ(風)・ナイト。

 ミレイちゃんは、呪い系統の術が多いノーム(土)・ウィザード。

 なるほど、これまで二人で戦い抜いてきただけあって、相性ばっちりのようだ。


 それから私達は、それぞれの役割を果たしつつ、敵をなぎ倒していった。

 まずミレイちゃんが、魔法による状態変化で敵の足を止める。

 そのあとエレナさんが、素早い斬撃でカタをつける。

 そして私が、その一連の流れをぼんやりとながめる。

 完璧なコンビネーションである。各自の得意分野が、いかんなく発揮されている。すばらしい。

 すばらしいのだが、ミレイちゃんが「こいつホントになんにもしねーな」みたいな眼差しを送ってくるのがいただけない。そんな目で私を見るな。見るな私を、そんな目で。

「さすがです、テス様!」

「へ?」

 冷たい視線に辟易していると、エレナさんが、唐突に私を讃えた。どうしたどうした。

「あたし今、とっても感動してます!見事なお仕事っぷり、感服の至りですー!」

「え、あの、見てただけだけど…。」

 皮肉言われてる?

 と思ったけど、彼女の瞳はあいかわらずキラッキラしている。本気で尊敬している目だ。

「そう!その慈愛に満ちた眼差しが、最高なんですー!」

「んー?」

「テス様が、守護天使のごとき泰然自若とした態度で見守ってくださるから、あたし達はいつも以上の力が発揮できているのです!見られてるだけで、こんなに力が湧いてくるなんて!指先ひとつ動かさないで仲間に力を与える…まさに匠の技!完璧なサポートです!」

「あ、そう?」

 なははと照れ笑いしながら、頭をポリポリ掻く。言われたら、なんか自分でもそんな気がしてきた。完璧なサポートを遂行している気がしてきた。

「まあ自分でも完璧だなーって思ってたけど、あらためて褒められると照れちゃうな、でへへ。」

「……。」

 エレナさんの的確な評価に、どうだとミレイちゃんに対して胸を張る。

 しかし、彼女の視線は更に冷たーくなっていた。なぜ。

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