第5話 やっぱやめたいなーって思ってる。今。
「なんて凛々しいお姿!素敵ですテス様!」
開口一番、エレナさんが私を誉めそやした。
嬉しさと同時に恐ろしさがつのる。
このローブの下はパジャマだと知ったら、この子どんな顔するんだろう。やはり町に行くべきだったか。二択を間違えたか。
一方ミレイちゃんは、私の部屋の散らかりっぷりにドン引き顔だ。
「仮にも英雄として名をはせた人なら、装備品は大切に保管しておくべきだと思いますよ…。」
部屋がゴチャゴチャの理由も、察しがついているようだ。敬語こそ使ってくれているが、かなり軽蔑されていることは想像に難くない。悲しい。変なプレッシャーなくて、楽と言えば楽だけど。
そんな憂い顔の妹をよそに、お姉ちゃんは私を無限に褒め讃え続ける。
「最高です、テス様!あの頃も素敵でしたけど、今のお姿も最高ですー!大人の女性の妖艶さがにじみでております!」
「いえいえ、そんな。ふけただけですよ。」
「いいえ!なんといいましょうか、衣の一枚下に危うさを孕んでいるような、不思議な魅力をお持ちです!」
(ばれてる?)
「はあ…。」
ミレイちゃんが、露骨なため息をついた。
まあ、身内がしょーもないもんを絶賛していたら、そりゃゲンナリもするだろう。
そのため息に反応し、エレナさんがぱっと振り向いた。
「ん?どうしたの、ミレイちゃん。元気ないね?」
小首を傾げて、妹の顔をのぞき込む。
「あーいや、別に…。」
ミレイちゃんが、つまらないなって表情でそっぽを向く。エレナさんはちょっと眉根を寄せたが、すぐ何かに気付いた顔になった。
「あ、わかった!テス様のことばっかり褒めたからすねてるんでしょ?大丈夫大丈夫、ミレイちゃんもかわいいよー!」
「ちょ、姉さん…!」
エレナさんが、妹の頭をなでなでする。なんとまあ。本当に仲のよい姉妹だ。普通、この年頃の子が家族に頭なでられたら
「うっざ。死ねよ」
とか言ってキレそうなものだが、そんな素振りは全然ない。あまつさえ、ちょっと口元がニヤついている。耳まで赤くして。さっきまでため息ついてたのに。
エレナさんは調子に乗って、その紅潮した耳をチョイチョイとつついたり、さすったりしだした。うふふーと笑いながら。いやもう、ほんと仲がいい。仲良し姉妹だ。素晴らしい。素晴らしいって言い方はちょっとあれだが、とにかく良い。興奮します。
私的にはずっとそのイチャイチャを見ていたかったが、残念ながら、その後すぐに冒険についての話になった。これから行くダンジョンについての、詳しい説明を受けた。
ちなみにダンジョン攻略でお金がもらえる仕組みは、
①・市町村の近隣にモンスターが巣(ダンジョン)を作る
②・市町村が金を出して、冒険者ギルドに依頼
③・ギルドが冒険者たちにミッションとして通達
④・冒険者がダンジョン攻略
⑤・ギルドから報酬
という流れになっている。
私たちが向かうのは、トロルの支配する塔だということだ。
すでに何人か攻略失敗していて、なかなかの難易度らしい。
他にもなんやかんや言っていたが、忘れた。
ほとんど聞き流していたのだ。
どうせ何もしなくてもいいんだし。
だって「何もしなくていい」と言われて、「いやそんなわけには」と頑張るなんて、逆に失礼じゃないですか。
ま、とにかく、トロルがボスのダンジョンに行くらしい。
復帰戦としては手ごろな感じだが、めんどい。
私としては、スライム二、三匹やっつけたら一億マニィもらえるような仕事がよかったが、そういうわけにはいかないようだ。人生とはままならぬものである。
ミーティングが終わると、私達は連れ立ってダンジョンに向かった。町の外に出ることすら久しぶりだ。
そして私は、再びダンジョンに足を踏み入れた。
中途半端な覚悟で。
生はんかな気持ちで。
鼻歌まじりのお遊び気分で。
なんか、大しくじりをやらかす予感がするが、きっと気のせいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます