8

「じゃあ、行ってくるわ。」

「・・・・行ってらっしゃい。」


あれから、私には自由が少なくなった。

仕事も辞め、主婦としての機能を果たしているだけ。

私はもう、考える事をやめた。


スーパーで買い物を終え、家に帰る道を急ぐ。

少しでも帰宅が遅いと匠吾の機嫌が悪くなる。そんな気がしているからだ。

私は、きっとこのまま匠吾の愛のない支配に抗えないまま一生を終えていくんだ。

周りには楽しそうに並んで歩く夫婦が沢山居る。

私もあんな風な夫婦になれると思っていたのに。

いつ道を間違ったの?

私はもう、明るい世界には行けないの?

そう自分に問いかけていると、誰かが私の腕を掴んだ。


「危ないで!」

「ごめんなさい!ぶたないで!」

咄嗟に振り向き、謝ってしまった。

そこにいたのは匠吾・・・ではなかった。


「舞、ちゃん?」

その姿は感情のない匠吾の顔から、ゆっくり心配そうに見つめる裕太の顔になった。

私、夢でも見てるの?

「舞ちゃん信号赤なのに気付かんで歩いて行くから、マジでびっくりしたわ。」

「裕太・・・・。」

「大丈夫か?」

心配そうな声で私に問いかける裕太が、私には眩しくて。

「裕太、助けて。」

「舞ちゃん・・・・。」

私は咄嗟にその眩しく輝くような存在に、すがり付くしかなかった。


裕太に連れられて、私は近くの公園のベンチに座った。

少し震えている私の手に、裕太は暖かいココアを渡し、少し距離を保ち隣に座った。

「暖かいうちに飲み。少し落ち着けるで。」

ココアを一口飲むと、口の中に甘みが広がり、少し心に余裕が持てるような気がした。

「・・・・舞ちゃん。聞いてええか。」

躊躇いがちに裕太が私に問いかける。

私はなにも言わずに俯いた。

「さっき、ぶたないでって言ってたのは、誰と俺を重ねてたんや?」

「それは・・・・あの、その。」

私は俯きながら話そうとするけれど、震えて口が上手く回らなかった。

「舞ちゃん。」

肩に手を置かれ、ビクッと体を強張ってしまうと、裕太はすまんと手を私から離した。

「言い出しにくい事ならごめんな。でも、信号待ちしてた舞ちゃんの顔見てたら、俺はどうしても心配で仕方ないんや。」

「裕太・・・・。」

「ゆっくりでええ。話してくれるか?」

裕太の優しく包み込んでくる声に少し落ち着きを取り戻した私は、ゆっくりとこれまでの話を話し出した。

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