4
大学の頃は楽しかった。
何もかもが新鮮で、自分自身に自信があって希望に満ち溢れていた。
今みたいに自分の存在なんて考える事もなかった。
裕太のそばにも居られると思っていた。
「俺、漫画家目指そう思うてるんや。」
そう言っていた裕太の顔は希望に包まれていた。
その頭にはきっと希望しかなくて、私はきっと裕太の邪魔になると思った。
だから、言えなかった。ずっと好きだったと言う事を。
「舞?」
「え、どうしたの?」
「どうしたのって、舞が言ってた今週末の予定の話やん。聞いてへんの。」
「ああ、ごめんね。」
「舞、最近変やで。ぼーっとしておるし。」
「ごめんなさい。」
「それだから、抜けとる言われるんやで。」
「・・・・ごめんなさい。」
匠吾は時が経つにつれ、私への小言が多くなった。
仕事からの物なのか、元々の物なのかは分からない。
そして思ってしまう。
そんな事を言わせているのは私が充分な奥さんになれてないからだと。
「とにかく。今週末は俺仕事の付き合いで居れへんから。」
「え、でも一緒に映画館に行こうって」
「仕方あらへんやろ。仕事なんやから。分かってくれ。」
いつからこの会話を繰り返しているのか、もう数えることもなくなった。
あの時に躊躇しないで裕太に気持ちを伝えていれば、こんな思いはしなくて済んだのかな。
そう思ってしまう自分の思考に驚いた。
裕太の事を思い出すと、心の中が暖かくなった。
「舞?」
「え、あ、ごめんなさい。分かったわ。大変だね。」
そう私は取り繕って、作り笑いを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます