第20話

揺らめく蜃気楼に、短命を嘆くように天高く鳴き続ける蝉のカウントダウン。


地面の照り返しが容赦なく体力を奪っていく。


それでも家から学校まで、30分程度の距離をダラダラ歩いていると、ようやく学校の傍までやって来たところで見知った姿が前を歩いていることに気づいた。




『浅岡くん。』




案の定、声をかければ、前を歩いていた背中は気づいたように立ち止まる。


ゆっくりと振り返った姿に、あたしは『やっぱ浅岡君だ。』と、ホッと胸を撫でた。


そして浅岡君の元へ駆け寄り、肩を並べる。




『おはよう。』



「なんだ、美羽か。」




涼しげな瞳にあたしを捉えた浅岡君も、あたしが隣に並んだのを確認してからまた前を向いた。




「めずらしく早いな。一人?」



『うん、暑くて寝てられなくて。おかげで朝風呂しちゃったよ。』



「あぁ分かる。俺も。」




暑いと言うわりには、浅岡君はほとんど汗を掻いていない。


青みがかったワイシャツは涼しげで、癖のない黒髪がそよそよと風になびく。



浅岡君とはクラスメイトで、人見知りの激しかった結依が、高校一年生の頃から唯一仲良くしていたのが浅岡君だった。


小さい頃から結依の面倒を見てきたあたしと、学校での結依の面倒を一気に引き受けている浅岡君。


あたしと浅岡君が同じクラスになったのは2年になってからで、結依を媒体に交流を持つようになるまでそう時間はかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る