第15話

「欲求不満?」



『そんなんじゃないよ。結依と一緒にしないで。』



「じゃあ何?」



『しばらくシてないなぁと思って。彼女と付き合ってどのくらいだっけ?』



「もうすぐ1ヶ月。言っとくけどキス以外はしないよ。」



『彼女のこと大好きだもんね。』



「美羽のことも好きだよ。」




そのまま消えそうに笑った結依に言葉を奪われた。


いや、消えそうに目を瞑ったのはあたしのほうかもしれない。


同情か、愛情か、今度はちゃんと唇に与えられたキスだった。



手も、指も、唇も、結依にとってはどれも同じでしかないのに、さっきの焦れったさが嘘のようになくなっていく。


夜に埋もれるように、不自然な沈黙に身を沈めて溶けていく。


あたしが回した腕にギュッと力を込めると、結依の吐息はさらにあたしの舌と深く絡んだ。




「熱い。」




悪戯に笑った結依がキスの合間に言う。


あたしも『バカになるようなことしてるしね。』真顔で言えば、結依はまたクツクツと喉を鳴らした。


そして浅く入り込んできた舌が唇の裏側を舐め、「違う。」と、結依の口元が艶めかしく弧を描く。




「熱いのは美羽の中。」



『人は体内のほうが体温高いんだよ。』



「うわ、キスしてるときにそういうこと言う?彼氏に言ったら引くよ、それ。」



『彼氏いないし。』



「作んないの?」



『まぁそのうち。』




結依は「ふぅん。」と答え、やがて興味を削がれたのかまたキスに身を投じた。


結依が沈黙を選んだなら、あたしに抗う理由はない。


まるで恋人同士のような錯覚に目を瞑れば、結依と初めてセックスした日のことが蘇った。

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