第11話
家が隣同士ということもあり、結依の成長を間近で見てきたお母さんも結依にメロメロだった。
そんなだから年頃の娘のことなんか放ったらかしで、ウサギの顔をしたオオカミを何の躊躇いもなく部屋へと上げる。
きっとあの部屋でなにが行われているのか、なんて、想像すらしないのだろう。
お母さんの中でのあたし達は、たぶん幼少の頃のままなのだ。
さっき可愛らしく覗かせた舌だって、部屋では艶めかしくあたしの身体を湿らせるだけなのに。
「結依君が美羽のお婿さんになってくれたら嬉しいんだけどなー」
『ぶ…っ』
しかも食事中になにを言い出すんだ、うちの母親は。
思いがけず咳き込んでしまった娘に、お母さんは「汚いわねぇ。」と白い目を向ける。
あたしはゴホゴホと咳き込みながら、涙目で『誰のせいだと思ってんの…っ』と母を見返した。
「ねぇ結依君、美羽のこともらってくれない?オバサン、結依君が息子になってくれたらすごく嬉しいんだけど。」
「美羽が俺のお嫁さん?」
「そー」
『ちょっと!結依も真面目に答えなくていいからっ』
「けど嫁にしろって…」
『だから真面目に考えなくていいの!』
すかさず結依の口を塞ごうとするが、でもバカげた会話は止まらなかった。
ビーフシチューを食べる結依を嬉しそうに見つめたお母さんが、ズンッと身を乗り出して答えを求めたからだ。
「あのね、オバサン結依君みたいな息子を連れて買い物に行くのが夢なのよ。」
『だからぁ…』
「美羽は少し黙ってて。どう?結依君。」
「っていうか俺、買い物ならいつでも付き合うよ?」
「あらほんと?」
「うん、だから美羽との結婚だけは勘弁して。」
お母さんの安易すぎる理由にはほとほと呆れる。
しかし、真顔で拒絶した結依にもほんと呆れる。
っていうか、こいつはチヤホヤされすぎて、デリカシーというものをどっかに置き忘れてきたんじゃないだろうか。
あたしだって結婚なんて考えたこともないが、でも面と向かって断わられるのもなんかムカつく。
ケラケラと失礼なことばかり言う二人を横目に、あたしはガックリと肩を落として反論することを諦めた。
お母さんが結依に惚れ込んでいる以上、実の娘が蔑ろにされるのも今さらだ。
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