第8話

『彼女いる奴があたしの部屋に来てていいの?』



「美羽は幼馴染じゃん。」



『でも女だよ。』



「うん、女じゃなきゃ困る。」




こういうこと出来ないし、と、結依はおもむろに絡めた指をペロリと舐める。


湿り気を帯びた手は、さっきから結依のやりたい放題だ。




「男に告られることはあっても、俺は女の子大好きだし。」




チラリと覗く舌にドキリとする。


丁寧に舐められていく指を好き勝手させながら眺めていると、室内には携帯の着信音が響いた。


シンプルな呼出音はあたしのではなく結依のだ。




『鳴ってるよ、ケータイ。彼女からじゃないの?』




ここでようやく我に返ったあたしは結依の胸を押し返す。


ゆっくりと顔を上げた結依も、後ろ髪を引かれることなくあたしから離れた。




『メール?』



「メール。彼女から。」



『っていうか、遊んでくれる人いるじゃん。なんでうち来んの。』



「今どこ?だって。今日は幼なじみの部屋に行くから無理って言ったんだけどなぁ。」



『なに疑われるようなことしてるの…』



「大丈夫。あいつ美羽のこと男だと思ってるみたいだから。」



『はぁ?』



「幼なじみが男だなんて一言も言ってないのにね?」



『最低だね、あんた…』



「でも嘘はついてないよ。」




秘密にしてたらそれも同罪だ。


呆れて物も言えないでいるあたしに、結依はやっぱり「今さらでしょ。」と言って笑うだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る