第7話

「美羽?」




ふとボーッとしてたら、怪訝な顔をした結依に顔を覗き込まれた。


ハッと意識を引き戻されたあたしは『何でもない。』と言って、首を振る。


結依はしばらく様子を探るようにあたしの顔を見つめていたが、やがて興味が薄れたのか、また手の甲に唇を落とした。



ちゅ、と音を立てて落とされるキスは誰よりも紳士的で、優しい。




『結依、くすぐったいって。』



「それも今さら。」



『言っとくけど今日は無理だからね?下にお母さんいるし…』



「シないよ。」




結依はあたしの頬の両脇に手のひらをついた。


夕陽は結依によって遮られ、いきなり覆い被さってきた結依が楽しそうにあたしを見下ろす。


こうやって人の逃げ道を奪うくせに、どの口が"シない"などと紡ぐのだろう。




「今、彼女いるし。」




ほんと呆れる。


結依は自分が笑えば、すべて許されるとでも思っているのだろうか。


逆光に照らされた微笑みを見ながら、こめかみの辺りがヒクリと引き攣ったのが分かった。



彼女がいるとき、結依は一切あたしに手を出さない。


こんなふうに戯れのような口づけで遊ぶことはあっても、それ以上は絶対に求めてこない。


どういう了見なのか、それは結依の中ですでに決定事項らしい。

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