第28話

「まだ何も言ってないのに…」


「俺的には“いいよ”って聞こえたんだけど」


「…っ、言ってない!」


「はいはい」




素直じゃないのは昔からだ。


宥めても不満をあらわに睨みつけてくる。


それでも越えられた一線を俺は嬉しく思い、実花の肩に凭れるように頭を預けた。


不意な重みにピク、と実花の肩が揺れる。




「…何?」


「もう一回していい?」


「は…?何を?」


「キス。舌は入れないから」


「な…っ、当たり前だよ!変態…!」


「変態って」




むしろ健全なキスで我慢しようとする健気な自分を褒めてほしい。


キス一つで顔をまっ赤にさせる実花にクツクツと喉を鳴らせば、警戒心をあらわに膝を抱える実花からは「…ムカつく」と、力ない憎まれ口が返される。

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