第27話
「もしかしてそんなに嫌だった?」
「え…?」
「キス」
意地悪で言っている自覚はある。
本気で嫌がっていないことは赤くなった顔を見れば分かるし、微妙な心情を汲めないほど自分の経験は浅くないと思っている。募る劣情をぶつけてしまうのが怖くて吐き出すだけの行為を続けてきた俺は、たぶん実花以上に実花の気持ちについて理解していると思う。
実花は俺の問いに唇を結んだ。慎重に息を呑んだのが固い表情から伝わってくる。自分が拒否したことで俺を傷つけたと勘違いしているのか、強気だった瞳は母の手を離した子どものように頼りない。
そんな眼差しにさえ情欲に駆られる自分は相当あてられているのかもしれない。
今だって触りたくて触りたくて仕方がないのだ。
「俺とキスするのは嫌?」
顔を覗き込むようにして額と額をくっつけた。
俺を傷つけたと思ってる実花はたぶん逃げない。
案の定、膝を抱えたまま微動だにしない実花からは「…近い」とか細い吐息を返されるだけ。
「だって顔近づけなきゃキス出来ないし」
「まだするなんて言ってないんだけど…」
「じゃあ、やめとく?」
「……、」
首を傾けながら頬に手を添えると、実花は返事の代わりに少しだけ顔を上げた。互いの唇に吐息が触れて、不自然な静寂からは実花の緊張が伝わってくる。キツく結ばれた唇を抉じ開けたい情動に駆られるも、触れるだけのキスにさえ実花は身体を震わせるのだ。
舌を入れるのはまた今度、と自分を納得させた俺は、離れ際に軽く唇を舐めるに留めた。
実花は手の甲で唇を押さえながら目線を逸らす。
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